近年は、DX・ビッグデータ・フィンテック・IoTなどがビジネストレンドキーワードとして挙げられています。
そして、組織や経営のカテゴリーでは「心理的安全性」が注目されています。
心理的安全性は「肯定すればOK」「ゆるい人間関係」「目標にシビアではない」といった誤解も多く、間違った解釈だと逆効果になってしまいます。
この記事では、「心理的安全性の基礎知識」とリーダーと非リーダーがそれぞれ実行可能な「具体的アクション」を解説します!
ちなみに、子供にとって「家庭」が最も心理的安全性の高い場所になるように工夫することが大切とも言われていますので、子育てにも応用できる知識ですよ。
こんな方にオススメです。
この記事のポイント
●心理的安全性の高い組織の特徴は、上司や同僚と気軽に会話や報告ができ、安心感があること。
●心理的安全性が高いと「回避できたはずの失敗」をせずに済む。
●心理的安全性を高めるためにリーダーがすべき行動は「土台をつくる」「参加を求める」「生産的に対応する」の3つ。
●心理的安全性を高めるためにリーダー以外の人ができる行動は「質問」「関心」「信頼」「相互理解」
エドモンドソン教授の提唱する心理的安全性とは?
心理的安全性(Psychological Safety)は、ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授によって提唱された概念です。
彼女は、心理的安全性のある組織の特徴を「上司や同僚と気軽に会話や報告ができる、安心感のある組織」と呼びました。
エドモンドソン教授が心理的安全性を発見するきっかけの1つとなった研究に、医療事故研究があります。
医療事故の報告件数と組織の特徴の関連性を調査したところ、「問題がある病院では医療事故になる直前のヒヤリハットが度々起きているが、その事象を報告できる雰囲気ではない」ということがわかっています。
一方で、医療事故が起きにくい病院は「ヒヤリハットを含めて気軽にありのまま情報共有できる職場である」とされています。
このような研究をきっかけに、良いことも悪いこともオープンにできる環境(心理的安全)が重要だということが判明したのです。
- エイミー・C・エドモンドソン
- 1980年ハーバード大学卒
1996年ハーバード大学大学院の組織行動のPh.D.を授与され、助教授として採用
2001年ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)准教授。
2006年ノバルティス記念講座教授
2011年以来、経営思想家ランキング「Thinkers50」に選出され続ける
2019年経営思想家ランキング3位に選出
【グーグル心理的安全性研究】プロジェクト・アリストテレスとは?
心理的安全性の概念を世界に広めたきっかけとして有名なのが、2012年にGoogleが行ったプロジェクト・アリストテレス(Project Aristotle)です。
プロジェクト・アリストテレスとは、「社内に存在する多数のチームにおける生産性について解明するために、データを駆使して行った大規模な実証研究」です。
その結果、次の5つの成功因子を発見しました。
真に重要なのは「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」であることを突き止めました。
チームの効果性に影響する因子を重要な順に示すと次のようになります。
①心理的安全性 -「チームの中でミスをしても、それを理由に非難されることはない」と思えるか。
②相互信頼 -「チームメンバーは、一度引き受けた仕事は最後までやりきってくれる」と思えるか。
③構造と明確さ -「チームには、有効な意思決定プロセスがある」と思えるか。
④仕事の意味 -「チームのためにしている仕事は、自分自身にとっても意義がある」と思えるか。
⑤インパクト -「チームの成果が組織の目標達成にどう貢献するかを理解している」か。
引用:Google「効果的なチームとは何かを知る」
5つの成功因子の中でも特に心理的安全性の重要性は群を抜いており、「他の4つの因子の土台となっている」と言及されています。
この結果を受けてGoogleは社内で心理的安全性を高める教育や運営を徹底し、そこから多数の企業で心理的安全性を担保する教育が浸透していったのです。
心理的安全性は回避できたはずの失敗をせずに済むメリットがある
心理的安全性が高いと、回避できたはずの失敗をせずに済むということが、最も重要な意義です。
みなさんは、こんなことを思ったり、言われた経験がありませんか?
少し嫌な予感がしていたから、事前に言ってあげていれば良かったな。
「思ったことをお互いに言えず、結果的に失敗を招く」という経験は、まさに心理的安全性を高めることができていなかった事例です。
実際に、書籍中に記載されている例は以下の通りです。
- 航空事故の例
- 絶対的な権限のある機長に、機体の異変を察知した副操縦士が報告したところ「問題ない。気にするな。」と指示された。
副操縦士は懸念点があったものの、反論することができなかった。
実は、副操縦士が指摘した異変箇所は大きな問題が生じており、墜落事故に至ってしまった。
- 医療事故の例
- ベテラン医師が入院患者用に処方指示書を作成した。
看護師、薬剤師が内容を閲覧したところ、いつもより投与量が多い気がした。
しかし、ちょうど先日も、そのベテラン医師に処方指示理由の確認を求めた際、激怒された記憶が頭に残っており、今回は誰も確認をすることがなかった。
結果的に過量投与で重篤な副作用が生じ、医療事故が発生してしまった。
このように、本当なら回避できたはずの失敗が、心理的安全性を担保されていなかったことで「おかしいと思ったことが言えない」という状況に陥って失敗に至るのです。
多くの組織では数多くの小さな問題が日常的に発生しています。
その小さな問題は氷山の一角で、会社の戦略や方針を再考につながっていく初期兆候になるかもしれません。
ところが、そんなサインは、心理的安全性が担保されず「意見を言えない」という環境下では、みすみす見逃されてしまっていることが多いのです。
「異論・反論を述べ、データを共有し、起こっていることについて積極的に報告するように促す」という環境が、みなさんの職場では実現できていますか?
絶え間ない学習と機敏な実行力を生み出す土台に「心理的安全性」が必要であることを認識しておきましょう!
心理的安全性は組織のパフォーマンスに影響する
心理的安全性と業績基準は異なる指標ですが、どちらも複雑にチームや組織のパフォーマンスに影響しています。
心理的安全性の「高・低」と業績基準の「高・低」で4つのゾーンに分類して考えてみましょう。
4つのゾーンの中で、最も懸念すべきは「不安ゾーン」です。
なぜなら、「不確実な相互依存」と「心理的安全性の欠如」が同時に生じている状況で高い基準を設けても、最高のパフォーマンスは生まれないからです。
- 無気力ゾーンの特徴
- 人々は職場に行きますが、心は別のところにあります。
懸命に努力するよりも保身に腐心するようになり、「つまらない生活」「つまらない仕事」と愚痴を言い合っています。
- 快適ゾーンの特徴
- 人々はともに気持ちよく仕事をしています。
対等な立場で率直に話をしますが、難しい仕事に立ち向かうことはありません。
- 不安ゾーンの特徴
- 人々は考えを言うことに怯え、仕事の質と職場の安全性の両方に害が出ています。
この職場のマネージャーは高い基準の設定とマネジメントを混同していることが多いです。
- 学習ゾーンおよび高いパフォーマンスゾーンの特徴
- 人々は協力し、互いから学び、複雑で革新的な仕事をやり遂げることができます。
しかし、一定数の企業は「不安ゾーン」の状態に陥っていると言及されています。
みなさんの職場環境はどの状態にあるでしょうか?
【意識調査の方法】チームの心理的安全性を測定してみよう
組織の心理的安全性の状態を知るためのツールをご紹介します。
エイミー・C・エドモンドソン教授が博士論文に取り入れていた意識調査の方法をご紹介します。
心理的安全性に関する意識調査
①このチームでミスをしたら、きまって咎められる。(R)
②このチームでは、メンバーが困難や難題を提起することができる。
③このチームの人々は、他と違っていることを認めない。(R)
④このチームでは、安心してリスクを取ることができる。
⑤このチームのメンバーには支援を求めにくい。(R)
⑥このチームには、私の努力を踏みにじるような行動を故意にする人は誰もいない。
⑦このチームのメンバーと仕事をするときには、私ならではのスキルと能力が高く評価され、活用されている。
引用:恐れのない組織
研究論文では、回答を7段階(「非常にそう思う」~「全くそう思わない」まで)のリッカート尺度を用いていますが、簡易的に5段階でアレンジしてもOKです。
この調査のポイントは、肯定と否定の回答がミックスされているところにあります。
4項目では「そう思う」と肯定表現を使った回答のほうが心理的安全性が高いことを示しています。
そして、3項目では「そう思わない」という否定表現を使った回答のほうが心理的安全性が高いことを示します。
もしデータ分析をする場合、(R)と記載されている回答は採点評価を逆転させて計算しましょう。
RはReverseの意味です。
心理的安全性を高めるためにリーダーが行うべきこと
心理的安全性を高めるためにリーダーがやるべきことは以下の3つです。
- 土台をつくる(期待と意味の共有を目指す)
- 参加を求める(発言が歓迎されるという確信を個々が持っている状態を目指す)
- 生産的に対応する(絶え間ない学習への方向づけを目指す)
各項目を掘り下げて解説します。
心理的安全性を高めるリーダー行動「土台をつくる」
直面している問題について共通目標と認識の共有を行い、メンバーの見解を一致させるように努力しましょう。
特に重要なことは「仕事をフレーミングする」「目的を際立たせる」という2つの行動です。
- 仕事をフレーミングする
- 失敗、不確実性、相互依存を当たり前とし、率直な発言の必要性を明確にするように心がけましょう。
リーダーが明確かつ積極的に、みんなが安心して失敗できるようにしなければ、必然的に人々は失敗を避けるようになっていきます。
小さな失敗を繰り返す中で、その後の飛躍が生まれることを伝え続けることが大切です。
仕事のフレーミングで、リーダーはこんな声かけを行ってみてはいかがでしょうか?
失敗から貴重な経験やデータが得られるので、決して失敗は悪ではないと確信しています。
完璧である必要はないから。
駄目なことを見たり経験することで、はるかに早く軌道修正できるようになるのよ。
- 目的を際立たせる
- 説得力ある目的をはっきりと伝えることは、人の意欲を高めることにつながります。
私たちの仕事がなぜ重要なのか、どのように、そして誰の役に立つかを明確に伝えましょう。
もし危機にさらされている事項があれば、頻繁に話をして目指すべき姿を共有するのもよい方法です。
目的を際立たせるために、リーダーはこんな声掛を行ってみてはいかがでしょうか?
この仕事を通じて人や社会を良くすることに貢献している。
心理的安全性を高めるリーダー行動「参加を求める」
ここでの目標は、参加して然るべき時にすんなり参加してもらえるようにすることです。
ここで特に重要なことは「状況的謙虚さ」と「発言を引き出す問い」の2つです。
- 状況的謙虚さ
- リーダーは、謙虚さと好奇心が混じり合った「学習するマインドセット」を常に持つように心がけましょう。
「自分は何でも知っている」と思っているリーダーには、対人関係リスクを取って自分の考えを話そうとするメンバーはいません。
学びには終わりがなく、自分が全ての答えを持っているわけではないと思っていることを伝えることからスタートすると良いですよ。
リーダーはこんな声掛を行ってみてはいかがでしょうか?
みんなの意見がぜひ必要なの。
- 発言を引き出す問い
- ほかの人の発言に心から関心を寄せられるように心がけましょう。
認知バイアスによって、人間は「自分はわかっている」と錯覚しやすい特徴があることを自覚し、ほかの人にはどのように見えているのか?という視点を持つことが大切です。
自分の考えを伝えるだけでなく、どれくらい周囲の意見を引き出す質問をしているかを重視すると良いですよ。
強力な問いの特徴
・聞き手に対する関心を引き起こす
・思慮深い会話を促す
・示唆に富む
・基本的前提を明るみに出す
・創造性と新たな可能性を引き寄せる
・エネルギーと進歩を生み出す
・注意を向ける先を変え、探究的な問いに集中させる
・参加者の話に耳を傾け続ける
・深遠な意味に言及する
・さらなる質問を呼び起こす
引用:恐れのない組織
心理的安全性を高めるリーダー行動「生産的に対応する」
心理的に安全な風土を育てるためには、人々が取るリスクに対しリーダーが生産的に対応することが必要不可欠です。
生産的な対応には、「感謝を表す」「失敗を恥ずかしいものではないとする」「明らかな違反に制裁措置をとる」の3つが重要です。
- 感謝を表す
- 部下が行動を示したり、意見を述べた時に、リーダーが必ず最初にすべき対応は「感謝」という対応です。
回答や指導は感謝の後に回し、まずは努力に配慮して耳を傾けましょう。
発言する勇気、行動する勇気に対して感謝の言葉をかけることが、「発言して、マイナスになったらどうしよう」というメンバーの不安を少しずつ解消していきます。
- 失敗を恥ずかしいものではないとする
- 不確実性やイノベーションには失敗がつきものですが、率直な発言を促すためには、そのことをハッキリと示す必要があります。
失敗に対してネガティブに対応すると、次第に失敗に関する詳細が耳に入らなくなり、それは最も恐れる事態です。
失敗は決して恥ずかしいことではないという認識が定着する取り組みや、実際に悪い知らせが届いた時に前向きな経験へと変換する方法を常に考えましょう。
失敗の報告に対して生産的に対応できるようになるには、失敗の分類を理解することが重要です。
従来の枠組み | 新たな枠組み | |
失敗に対する考え方 | 失敗は受容できない | 試みに失敗はつきものである |
高い業績についての考え方 | 高い業績をあげる人は失敗しない | 高い業績をあげる人は賢い失敗をし、 失敗から学び、その学びを共有する |
目標 | 失敗を回避する | 素早い学習を促進する |
枠組みがもたらす影響 | 保身のために失敗を隠す | 率直に話し合い、素早く学び、 イノベーションを起こす |
賢い失敗に対する生産的な対応として有名な例として、製薬会社のイーライリリーの事例があります。
最高科学責任者(CSO)が「失敗パーティー」という、「知的で質が高いものの、期待される結果を得られなかった研究」を称えるイベントを開催しています。
失敗を責めることなく、「褒め称え、事例から学ぶ」という良い事例ですね。
- 明らかな違反に制裁措置をとる
- 非難されても仕方のない行為に対して適切に対処することは、心理的安全性が逆に強化されます。
ただし、リーダーは事前に「非難されても仕方のない行為の境界線」を明確に示すことが重要です。
明確に示した上で、例えばハラスメントや差別的扱いなどの行為には然るべき厳格な措置を行いましょう。
心理的安全性を高めるためにメンバーが貢献できること
ここまで心理的安全性の概略をご紹介しましたが、こんなことを思った人がおられるのではないでしょうか?
心理的安全性をつくる後押しは、メンバーにもできます!
メンバーが心理的安全性を高めるためのアクションを4つご紹介します。
心理的安全性を高めるアクション
●「よい質問をする」⇒相手への関心を示し、発言機会を与える大切な行為
●「関心を持っている気持ちを前面に出す」⇒相手への敬意につながる
●「みんなの考えを頼りにする」⇒相手の意見を歓迎することにつながる
●「感想を返す」⇒相手の意見を受け入れ、相互理解につながる
他に、普段のコミュニケーションで使える効果抜群のフレーズをご紹介します。
- 自分の弱さをさらけ出すことで安心感を生むフレーズ
- ・わからないことがあります。
・みなさんの手助けが必要です。
・間違ってしまいました。
・ごめんなさい。
- いつでも相手が望む時に手を貸そうと思っていることを示すフレーズ
- ・どんな手助けができそうですか?
・どんな問題で困っていますか?
・何か気がかりなことはありますか?
どれもテクニックとして使うのではなく、相手に関心を示し、寄り添う気持ちを持つことが大切だと私は思います。
まとめ
本日は、心理的安全性の基礎知識と、リーダー&リーダー以外の人が可能なアクションをご紹介しました。
●心理的安全性の高い組織の特徴は、上司や同僚と気軽に会話や報告ができ、安心感があること。
●心理的安全性が高いと「回避できたはずの失敗」をせずに済む。
●心理的安全性を高めるためにリーダーがすべき行動は「土台をつくる」「参加を求める」「生産的に対応する」の3つ。
●心理的安全性を高めるためにリーダー以外の人ができる行動は「質問」「関心」「信頼」「相互理解」
職場・家庭の土台として、今回ご紹介した心理的安全性の知識が役立てば嬉しいです。
最後までご覧いただきありがとうございました!
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