皆さまは「ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件」という書籍をご存知でしょうか?
2010年に発行されてから経営書として確固たる地位を築き、今や25万部を超えるベストセラー本です。
著者の楠木建さんは、一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻の教授として、企業が競争の中で持続的な競争優位を構築する論理を専門に研究されています。
この本は多くのビジネスマンに推奨されていますが、たまにこんな声を耳にします。
そこで、この記事では「ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件」の要点を解説し、より多くの方が親しんでいただけるようにしたいと思います。
この記事で分かること
●戦略の本質は、他社との「違い」と「つながり」。
●優れた戦略は「人々の役に立ちたいという想いの詰まった、面白く生き生きとした動画」
●面白いという意味は「その手があったか!」と思わせること。
●当事者がついつい誰かに熱い気持ちで話したくなるほど良い。
●ゴールに向かって一貫性とストーリー展開される戦略を立案することが大切。
楠木建さんの考える「戦略の本質」とは?
戦略の本質には以下の2つがあります。
チェックポイント
①他社との「違い」をつくること
②違いの「つながり」がある戦略ストーリーをつくること。
つまり、個別の「違い」を流れと動きをもったストーリーに「つなげる」ことが本質であるとされています。
この本質を意識しながら戦略ストーリーを描く時に、5つの「C」が重要です。
- 戦略ストーリーの5C
- ①競争優位(Competitive Advantage):利益創出の最終的な論理。起承転結の結。
②コンセプト(Concept):本質的な顧客価値の定義。起承転結の起。
③構成要素(Components):競合他社との違い。起承転結の承。
④クリティカル・コア(Critical Core):独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素。起承転結の転。
⑤一貫性(Consistency):構成要素をつなぐ因果論理。ストーリーの評価基準。
優れた戦略の定義とは何か?
優れた戦略は「人々の役に立ちたいという想いの詰まった、面白く生き生きとした動画」とされています。
理由は、そもそも何かの役に立てなければ戦略以前に淘汰されることは明白だからです。
さらに、厳しい競争環境下で価値を出し続ける為には「面白く生き生きとした動画を見るような戦略」でなければ、現代のビジネス環境で一歩抜きん出て成功を手にすることは難しいとされています。
こんな質問に対する答えは、「面白みのない悄然とした静止画のような戦略 」となります。
- 優れた戦略と優れていない戦略の違い
- ●優れた戦略⇒ 「面白く生き生きとした動画を見るような戦略」
●優れていない戦略⇒「面白みのない悄然とした静止画のような戦略」
つまり、「どこにでもある、当たり前で意志薄弱な場当たり的戦略ではないもの」と逆説的に考えてみるとよいと思います。
このように感じる方もおられるかと思いますので、「面白く」「生き生きしている」「動画」を3つに分解して掘り下げながら解説していきます。
優れた戦略の要素「面白さ」とは?
面白いという意味は「その手があったか!」と思わず口に出したくなるような仕掛けになっていることです。
一見するとセオリーから外れていますが、全体像を捉えると「なるほど~。」と納得するものである程、良いとされています。
他の表現をするなら、「キラーパス」とも言えます。
つまり、賢者の盲点を突くような一見すると非合理的だけれども蓋を開けてみると実は合理的に考え抜かれた打ち手のことです。
例)サウスウエスト航空
サウスウエスト航空は、米国の格安航空会社です。
コストカットと効率化を実現したユニークな戦略で有名な企業ですが、その中でもハブ・アンド・スポーク方式(拠点大都市経由)方式を使わずに、小規模空港間の直行便に特化したキラーパスが注目されています。
他の航空会社と競合ではなく、「空飛ぶバス」と自社を位置付けた違いの作り方が興味深いです。
優れた戦略の要素「生き生きしている」とは?
当事者がついつい誰かに熱い気持ちで話したくなるような、夢中になるものほど良い戦略です。
チェックポイント
●生き生きしている⇒根拠が明確で仕事に向かって突き動かされるほどに練り上げられたもの。
●生き生きしていない⇒嫌々考えて絞り出た、半ば強制的に本質が浸透しないままに行動させるもの。
一般論で考えると、戦略は「何を」「どのように」という視点を重視しがちになります。
しかし、最終的にオペレーションがうまく機能するためには、「なぜ?」という部分の理解と浸透が重要です。
皆さんの会社では、戦略に対してこんな声が出ていませんか?
「なぜ?」という部分の理解・浸透を図るためには、以下の2点が重要です。
- なぜ?を理解・浸透させるポイント
- ①根拠が明確で夢中になれるようなプランを策定すること。
②1人1人が根拠を理解して、いつでも代弁できる状態まで練り上げていくこと。
比較的①は意識されるケースがあるかもしれませんが、②に関してはついつい疎かになりがちな印象があります。
戦略策定をする側はもちろんですが、戦略を受けて実行する側の人も「なぜ?」の部分を理解できるように歩み寄りの姿勢が大事かなと個人的には思います。
優れた戦略の要素「動画のようになっている」とは?
ゴールに向かって1つ1つの策に一貫性があり、動画のようにストーリー展開される戦略のことです。
ゴールに向かっていく「コンセプト」「構成要素」「独自性」「因果関係」を1本の動画にすると、一連の流れで映し出されるように構成されていることが重要になります。
動画ような戦略の特徴
動画のようにストーリー展開している戦略は、以下のように他人へ語ることができます。
「何故儲かるのか」それは、「我々だけがこういうことができるから」
「何故それができるのか」それは、「うちのお客様がこうなっているから」
「何故そうなっているのか」それは、「我々がこれをやっているから」
「何故それをやっているのか」それは、「そもそもこれに特化しているから」
イマイチな戦略の例として、「点で捉えると個々には良い打ち手であっても、繋ぎ合わせると一貫性が失われているストーリー」になっていることがあります。
先行して成功している企業の打ち手を真似して自社に導入しても、思ったような成果が出ないケースはこれに近いと思います。
例えば、セブンイレブンの「POSシステム導入」によるマーケティング手法があります。
POSシステム
発注担当者が天気や行事などの情報を基に発注し、その販売結果をPOSデータで検証することで次の発注の仮説を立てやすく仕組みです。
セブンイレブンは他のコンビニと比較して1店舗あたりの売上額が多いことの要因として「POSシステム」が注目され、現在は他の企業も導入しています。
コンビニチェーン各社がPOSシステムという「点」に注目して導入しましたが、セブンイレブンと同程度の1店舗あたりの売上には届いていません。
これは、セブンイレブンには一貫性のある戦略ストーリーの1つとしてPOSシステムという「点」が繋がっているからこそ可能になっている成果であり、「点」だけ模倣しても簡単には上手くいかない事例だと言えるのではないでしょうか。
ストーリーとしての競争戦略に登場する企業の実例
本著に実例で紹介されている企業戦略の一部をご紹介します。
●スターバックス⇒顧客が支払いたいと思う水準を高める「第三の場所」というコンセプトによる戦略
●ガリバー⇒中古車買い取り専門の業態モデルをオークション販売による在庫回転率向上によって可能にした戦略
●サウスウエスト航空⇒ハブ・アンド・スポーク方式(拠点大都市経由)方式を使わずに、小規模空港間の直行便に特化した戦略
●マブチモーター⇒低コストな少品種効率的生産を目指してモーターの標準化をコンセプトにした戦略
戦略ストーリーの「骨法10ヵ条」
著者が、戦略ストーリーを立案する際の10カ条をまとめてご紹介します。
戦略ストーリーの骨法10カ条
①エンディングから考える
②「普通の人々」の本性を直視する
③悲観主義で論理を詰める
④物事が起こる順序にこだわる
⑤過去から未来を構想する
⑥失敗を避けようとしない
⑦「賢者の盲点」を衝く
⑧競合他社に対してオープンに構える
⑨抽象化で本質をつかむ
⑩思わず話したくなる話をする
まとめ
今回は、競争戦略の教科書的な位置づけの「ストーリーとしての競争戦略」の要点をご紹介しました。
この書籍を読むと、点で捉える思考から脱却し、これがこうなってああなって・・と展開を考えることができるようになると思います。
●戦略の本質は、他社との「違い」をつくること+違いの「つながり」がある戦略ストーリーをつくること。
●優れた戦略は「人々の役に立ちたいという想いの詰まった、面白く生き生きとした動画」です。
●面白いという意味は「その手があったか!」と思わず口に出したくなるような仕掛けになっていること
●当事者がついつい誰かに熱い気持ちで話したくなるような、夢中になるものほど良い。
●ゴールに向かって1つ1つの策に一貫性があり、動画のようにストーリー展開される戦略を立案する。
本著は500ページ超の大作ですが、実例にも触れながら分かりやすく解説されていますので、私のように経営や戦略を普段の仕事で慣れていない人でも理解しやすいですよ。
本日ご紹介の書籍はこちらです。
本日も最後までご覧いただきありがとうございました。
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