営業をしていると、1度は顧客とのコミュニケーションに悩んだ経験があるのではないでしょうか?
そこでこの記事では、「営業心理学」で有名な著書5冊と筆者の営業経験から、読者の方に実践いただけるテクニックを抜粋してご紹介します。
私は製薬会社で営業(MR)の仕事を10年以上続けています。
心理学は学生時代から興味を持ち始め、現在は営業心理学の勉強をしながら実践中です。
【営業に使える心理学①】「ハロー効果」を意識する
ハロー効果とは「1つの特徴が相手に与える印象の基準」となり、他の特徴も最初の印象に大きく影響を受けて評価するようになることです。
ポジティブハロー効果を相手に与える言動を意識しましょう!
話をする相手が「東大卒」と知ったら、仕事・投資・趣味などジャンルが異なる話題でも「この人が言うなら正しいだろう」と内容に関わらず信用しやすくなるケースがまさにハロー効果です。
ハロー効果には「ポジティブ」と「ネガティブ」の2つがあります。
ポジティブハロー効果
実際の人柄や能力関係なく、良い印象に影響を受けて「きっと優秀な営業だろう」「この人の言うことは正しいだろう」と肯定的に捉えやすくなる。
ネガティブハロー効果
実際の人柄や能力関係なく、悪い印象に影響を受けて「この人はやっぱりダメそうだな」「この人の言うことは疑わしいな」と否定的に捉えやすくなる。
ポジティブハロー効果を発揮するには、相手に「優秀そうだ」「信頼できる」「面白そうな人」など好意的に感じてもらえる言動を意識することが重要です。
- ポジティブハロー効果を意識したテクニック
- ●清潔感のある服装と身だしなみで訪問する
●権威性を伝える(過去に有名な○○を担当した経験があります)
●専門性を伝える(○○領域を○年担当しています)
●権威性&専門性を伝える(○○の資格を保有しています)
もしこう思った方は、上司同行をセッティングし、同行相手から「弊社期待の社員です。」「優秀と評判の社員です」と紹介してもらうように仕込むという方法も有効です。
ハロー効果は社内の人間関係にも効果があります。
異動の時に飛び交う「噂」はハロー効果を与えます。
「誰にでも真摯に接する」「社内に敵を作らない」ということを意識しておくと足を引っ張られずに済みますよ。
【営業に使える心理学②】「腕組み」の仕草を観察する
手や腕の動作は、その人の心理状態を表します。
会話中に相手が腕組みをした時は、その後の会話を慎重に進めましょう。
特に多いのが、腕組みをしながら「その意見は確かにいいと思うんだけどなぁ~。」と相手が発言した時です。
恐らく、相手は何かに気になること(不満・不安)があるはずなので、こちらから歩み寄って本音を引き出しておく必要があります。
腕組みに関しては、姿勢とセットで認識すると、より精度が上がります。
●腕組み+上体をそらす=権威を示したい心理状態
●腕組み+背中を丸める=不安な心理状態
●腕組み+満員電車=パーソナルスペースを確保したい心理状態
※単純に、ただ考え事をしている時にも腕組みをすることがあります。
社内・社外の人との活用例
会話中に相手が腕組みをした場合は、話の展開を変えることも視野に入れましょう。
●交渉中に相手が腕組みをした時
→懸念点の質問or代替案への切り替えを行う
●相談中に相手が腕組みをした時
→否定的反応に備えて、回答の準備をする
●肯定的な言葉を発しながら腕組みをした時
→相手の懸念点をこちらから質問する。
【営業に使える心理学③】「共感」を示す
相手の想いに共感することで、正当化したい気持ちを満たすことです。
これを社会的正当化と呼びます。
基本的に相手の主張を「その通りですね」「その気持ち分かります」と共感する対応をすればOKです。
応用編として、「その通りですね」と共感するだけでも効果はありますが、一歩踏み込んで相手の視点に立ち、
と深く理解していることを伝えることができれば、さらに相手は正当化された気持ちが強くなり、親近感を持ってくれます。
社会的正当化の社外例
顧客:治療方針をA医師から○○に変更するようにと指示されたのですが、私は変えない方がいいと思うんですよね。
営業:そうですね。色んな選択肢から現在の治療方針を選択されていると思いますので、困りますよね
顧客:そうなんです。色々な事情があるのだとは思いますが、こっちにも考えがあって決めているんですからね~。
営業:とてもその気持ちわかります。
社会的正当化の社内例
相手:ちょっと聞いてくださいよ。○○さんから理不尽なことを言われたんです。おかしいと思いませんか?
あなた:たしかにそれはおかしいよね。
相手:そうでしょ?こっちは△△を考えてやっているのに、理解もせずに○○さんは自分の解釈だけで言ってくるんです。
あなた:なるほど。△△のことも考えてやっているのは、ちゃんと知っておいて欲しいよね。それだったら不満に感じてしまうよね。
自分の発言を肯定的に聞いてくれる人に対して行為を持つのは共通ですが、男性と女性では求める反応が一部異なる傾向もありますので以下に解説します。
共感内容の性差
●男性
相談を持ち掛けられた場合、具体的な「解決策」を求める傾向にある
●女性
相談を持ち掛けられた場合、「共感」を求める傾向にある
このような点も念頭に置くことで、場面に応じた適切な対応ができると思いますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
【営業に使える心理学④】「返報性」を使う
先に恩を売る行動をすることで、恩を返してもらいやすくする方法です。
これを好意の返報性と呼びます。
人から何かをしてもらったり、受け取った場合に、「お返ししよう」という気持ちになることです。
●自分がAさんに仕事を依頼した時にすぐに対応してくれて助かったので、後日Aさんから頼まれたことにはすぐに対応した。
●SNSで「いいね!」をもらった相手には、お返しで「いいね!」を押した
●観光地で集合写真を撮影したい時に「写真を撮りましょうか?」と言ってくれた相手に対して、撮影後にこちらからも「よかったら撮りましょうか?」と伝えた。
返報性の例
●好意の返報性
こちらの好意に対して相手も好意を返そうとする
●譲歩の返報性
こちらの譲歩に対して相手も譲歩しようとする
●自己開示の返報性
こちらが自己開示すると相手も自己開示しようとする
●敵意の返報性
こちらの敵意に対して相手も敵意を抱く
このように、自分の行為は相手から様々な形で返ってきます。
相手と関係を良くしたいのであればGIVEの精神を持ち、相手が喜ぶ行動や自分のプライベートな一面を出すように心がけることで、親密な関係に向かうきっかけを掴めるかもしれません。
返報性を狙った社外活用例
●依頼事項の対応
「要望通りできるかわかりませんが・・。」「少し時間がかかるかもしれませんが・・。」と少しハードルを上げておいて、「何とかできました!」というアピールを自然に入れる工夫をする。(努力したことが相手に伝わり、その後に相手からも譲歩を受けやすくなる)
●相手に貸しを作る
相手が「ここまでやってくれているから何かしてあげないと」と思うまで、ニーズに合った企画や資源を投入する
返報性を狙った社内活用例
●依頼事項の対応
優先して対応することで、次にこちらが依頼した際にはすぐに対応してくれる可能性が高まります。
●困っていることの支援
少々手間でも、相手が困っていることを助けてあげることでこちらが困っている時に助けようと思ってくれやすくなります。
応用テクニックとして、依頼されたことに対して何でもスマートに対応せず、敢えて苦労した雰囲気を入れる工夫をすることも有効です。
スマートに淡々とこなすよりも苦労しながら対応した方が、相手からすると「頑張ってやってくれたから何かあった時は助けてあげよう」という思いが強くなります。
同じ対応でも工夫次第で相手に与える印象や効果は大きく変わりますよ!
【営業に使える心理学⑤】「影響力」を駆使する
社会的に「権威」を持つ人の影響力を使って提案を通す方法です。
これを社会的勢力と呼びます。
もともと人は正しいと思うことに「同調する」性質を持っています。
代表的な同調するパターンを2つご紹介します。
①社会的に権威を持つ人の行動・発言
②多くの人が行っていること
特に①では、その人の地位だけでなく、高級時計・高級車など権威を感じるものを持っていることでも効果は発揮されやすくなります。
MRをしていると、著名な医師に講演を依頼する機会が出てきますが、まさしくこの権威性の持つ影響力を目的としています。
日頃の活動から、全国・エリアで影響力のある人物を見極めておきましょう!
最後に余談ですが、社会的勢力には、7つの影響力の種類があります。
恐らく、皆さんもそれぞれの項目毎に経験があるのではないでしょうか?
①賞勢力:従うことで利益を得られると思う
②罰勢力:従わなければ不利益を被ると思う
③正当勢力:社会的立場上、従うべきと思う
④専門勢力:専門家という立場に従おうと思う
⑤参照勢力:憧れを抱き、真似したいと思う
⑥情報勢力:説得力があるので従おうと思う
⑦魅力勢力:好意のある人から依頼されれば従おうと思う
影響力を使った社外活用例
●KOLの使用経験
●主要施設の採用・使用状況
●周辺施設の採用・使用状況
●関連施設の採用・使用状況
●連携施設の採用・使用状況
●個人的なつながりのある医師の採用・使用状況
影響力を使った社内活用例
●相手よりも立場が上の人の意向を添えて伝える
●類似事例で既に成功している情報を添えて伝える
●自分以外に賛成している人間が多い情報を添えて伝える
【営業に使える心理学⑥】「もしもトーク」で起死回生
思い込みや心理的障壁となっている状況を取り除き、相手を前向きにする方法です!
これをアズ・イフ・フレームと呼びます。
話が難航している時は、問題点にばかり注目するため重い空気になり、改善策が出にくい状況に陥ります。そこで、
と、物事の捉え方を変える質問をすることで、相手もポジティブな視点のスイッチが入り、状況が打開できるきっかけにつながります。
ポジティブな部分の会話に誘導するために大事なテクニックです。
MRの事例で考えてみましょう!
アズ・イフ・フレーム社外活用例
●もし懸念点の○○がなければ薬剤の評価はいかがでしょうか?
●仮にこの問題が解決するデータがあるとすれば、いかがでしょうか?
MRの方は、長期処方制限・副作用・有用性データ・他剤との比較点・価格など、どこかで課題を指摘された経験があると思います。
その際に、この方法を使うことで前向きな意見交換ができるのではないでしょうか。
アズ・イフ・フレーム社内活用例
●もし懸念点の○○がクリアされれば活動は進展しますか?
●もし懸念点の○○さえクリアできれば目標通りの結果が得られますか?
●もしこの問題が解決すれば企画を進めても良いとお考えでしょうか?
社内で新しい取り組みや提案を行う時には、否定的見解が出ることが多いです。
その際に、議論を平行線で進めるのではなく、このような投げかけを行うことで大筋では合意できているが一部だけ改善の余地があるという状態にすることで状況は前向きになっていくと思います。
【営業に使える心理学⑦】「アンカリング」を活用する
判断基準を先に提示することで、後の判断材料に影響を受けさせる方法です。
これをアンカリングと呼びます。
先に提示された情報が1つの基準として認識されることで(アンカー)、後の情報は先に提示された情報に対して比較するようになりやすくなります。
●スーパーで同じ価格の類似商品を比較する際に、値引き前の金額記載がある商品の方がお得に感じて購入した
●相手が待ち合わせ時刻に遅れる際、事前に1時間遅れると連絡をくれていて30分遅刻の時間に到着すると、早く来てくれたと思った
どのような事前情報をインプットしているかで、物事の捉え方は変化します。事前情報の伝え方を重視しましょう!
悪用しようとすると、どこかで代償が発生しますので決して行わないようにしましょう。
それでは、MRの観点で活用方法を考えていきましょう!
アンカリングの社外活用例
●比較対象情報を事前に伝えた上で自社製品情報を伝える
●業界の基準を伝えた上で自社の対応を伝える
比較は製薬会社のルールが厳しくなってきていますが、エビデンスベースの許容される情報を使用しましょう。
また、業界ルールを逸脱する過大な要求を受けた時は、断るだけではなくて事前に業界基準や規定を説明した上で断るだけで受け手の印象は改善しますよ。
アンカリングの社内活用例
●事前にハードルが高い情報を伝えた上で実行する
●顧客の反応をシビアに評価して社内に報告しておく
最初に「大丈夫ですよ」「簡単そうです」と言っておいてから難航する時と、最初から「苦戦しそうです」「難しそうです」と言っておいて難航する時では、社内の捉え方もかなり変わってきます。
まとめ
いかがでしょうか?
各カテゴリーの中から1つずつ厳選してみました!
社内・社外ともに使える心理学の知識を抜粋しましたので、是非ご活用ください。
自分の仕事をやりやすくするために有効活用しましょう!
本日も最後までご覧いただきありがとうございました!
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