「発達の最近接領域」という言葉をご存知でしょうか?
ロシアの心理学者であるレフ・ヴィゴツキーが提唱した「発達と教育との関連」に対する考え方です。
この記事では、「子育て」と「仕事」にとても役立つ知識になりますので、基礎的な考え方と実践方法を図も用いながら解説していきます。
こんな方にオススメですよ。
この記事の要点
●発達の最近接領域とは「子供が自力では到達できないけれど、ほかの人の援助があれば問題解決ができる領域」という考え方
●教える側が、その人にとっての「発達の最近接領域はどこか?」をイメージすることが大切
●子供に対して「せめてこれくらいはできるようになって欲しい」という気持ちはNG
●苦戦している時は、叱るよりも課題設定の見直しを考える
●「発達の最近接領域」の考え方は、仕事の人材育成にも応用できる
●他人を変えることはできないが、サポートすることはできる。
子育てをする上で知っておきたい発達の最近接領域とは?
発達の最近接領域とは、「子供が自力では到達できないけれど、ほかの人の援助があれば問題解決ができる領域」という考え方です。
「子供の発達段階に応じて学べることは異なっており、その子に合った課題がある」と、イメージしてみてください。
例えば、図の子供を例にすると、この子の場合は「大きいボタンの服であれば支援を受けながら自分で着ることができる」という状態にあります。
これが発達の最近接領域となります。
発達の最近接領域を子育てに活かす方法
大切なのは、その子にとって簡単ではなく難しすぎもしない「発達の最近接領域はどこか?」を親がイメージすることです。
なぜなら、簡単すぎると学びにならない一方で、難しすぎると苦痛以外の何ものでもないからです。
こういう経験がある場合、もしかすると子供にとっては無理をさせていて、目の前の課題がその子にとって「発達の最近接領域」に入っていない可能性が高いと考えてみてはいかがでしょうか。
その場合は、最初に行うべきは「課題の見直し」になります。
最も学びが得られるのは「可能的水準」のゾーンに入る課題に向き合っている時になりますので、その子にとってゾーンに入っているかを意識してみましょう。
例えば小学2年生の場合、足し算は「完成した水準」で新たな学びが少ないですが、平方根は「未完成の水準」で難しすぎて学びが得られにくいため、掛け算が「可能的水準」でちょうどよいレベルというイメージです。
上記の例はあくまで一例で、同じ小学2年生でも個々に差がありますので、「子供に合った課題設定」を意識してみると、親と子供の双方にとってよい環境ができます。
親が「せめてこれくらい」と子供に期待することは避ける
子供に対して「せめてこれくらいはできるようになって欲しい」という気持ちになった経験がありますか?
私は2児の父で、年齢相応・一般論を目安に「最低限これくらいは」と考えて子供と接してしまうことが少なくありません。
しかしこの考え方には注意すべき点があります。
「せめてこれくらい」の考え方に対する注意点
●子供は親の期待に応えるために生きているわけではない。
●「親バカ」という言葉があるように、一般的に親は子供に対して「過大評価」と「高望み」をする傾向にある。
もしこう思った時は、「高望みしすぎていたのかもな」と振り返り、軌道修正することがおすすめです。
そうすることで、子供に対して必要以上に怒りを感じて叱ってしまうことが少なくなりますよ。
決して、子供に期待するなという意味ではないので、誤解しないようにお願いします。
こう思われるかもしれませんので、参考例をご紹介します。
図のように、親の抱く「せめてこれくらい」は子供にとって「せめてこれくらいを超えている」というケースが意外とあります。
実際、子育ての本にも「子供に対して、せめてこれくらいという発想はNGだ」と書かれていることもしばしば見受けられます。
その理由には以下の2つがあります。
「せめてこれくらい」の発想をやめるメリット
①親の勝手な高望みを捨てることで、子供の心に届く「伝え方」ができるようになる。
②世間の平均値から離れ、目の前の子供を主役にして「どうしていくか?」を考えることができる。
もし、お子さんとのコミュニケーションで悩んでいる方は、「高望みを捨てる」ということに取り組んでみてはいかがでしょうか。
発達の最近接領域を仕事で実践する例
ここまでご覧いただいた方の中には、こんなことを思いませんでしたか?
もしお子さんがおられなくても、仕事をしている社会人の方なら「人材育成」に置き換えて考えてみてはいかがでしょうか?
発達の最近接領域を「特定の社員が自力では到達できないけれど、ほかの人の援助があれば問題解決ができる領域」と考えてみましょう。
仕事ができる人ほど、後輩・部下・先輩に対して歯がゆい気持ちを抱いた経験があると思います。
仕事ができるみなさんにとっては「完成した水準」の当たり前にできる仕事かもしれませんが、ほかの人にとっては「未完成の水準」で支援があってもできない仕事なのかもしれません。
イライラの気持ちを抱く前に、まずは「発達の最近接領域」に入っていない可能性を考えてみて、必要に応じて「課題の見直し」を行ってみましょう。
私が勤務する製薬業界のMRを例にすると、デジタルツールを使った顧客へのアプローチ方法・顧客とのアポイント取得・説明会の取得・セミナーの活用度などは、個々のMRによって幅があります。
器用になんでもこなせるMRからすると当たり前の作業でも、新しいことが苦手なMRは「言われただけでは実行するイメージすら浮かばない」という差が発生しているのです。
このように何回も注意されてできない時は、その人にとって「発達の最近接領域」に入っていないことが問題なので、課題を見直すことが真のやるべきことになります。
例えば「解説付きの手順書作成」「同行訪問」で成功体験を積むサポートなど、相手のレベルに寄り添った支援と目標設定を行う必要があります。
馬を水飲み場に連れていくことはできても、水を飲ませることはできない。
他人を「変える」ということは非常に難しいと言われています。
なぜなら、人は「自分が変わりたいと思ったときに変わる」という性質があるからです。
これは、子供も大人も同じです。
イギリスの有名なことわざをご存知でしょうか?
馬を水飲み場に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない。
You can take a horse to the water, but you can’t make him drink.
人は他人に対して機会を与えることはできますが、実行するかどうかは本人次第であるということを意味しています。
子供や同僚など「他人」に対してできることは、「水を飲みたい」という気持ちになるためのサポートまでです。
共に考え、いつでも手を差し伸べる気持ちがあることを伝え、タイミングに合った選択肢を提示する。
歯がゆい部分があるかもしれませんが、これが他人に対して効果的な寄り添い方だと思います。
試しに私がこの考え方で子供との接し方を実践してみたところ、「高望みの要求」をすることが減ったことで叱る回数も減少し、子供が今本当に興味のあることを意識しやすくなりました。
大人と子供の双方にとって、気持ちが楽で良好な関係を保つために役立つ考え方だと感じています。
まとめ
今回は「発達の最近接領域」という考え方と、子育てや仕事に応用するイメージをご紹介しました。
この記事の要点
●発達の最近接領域とは「子供が自力では到達できないけれど、ほかの人の援助があれば問題解決ができる領域」という考え方
●教える側が、その人にとっての「発達の最近接領域はどこか?」をイメージすることが大切
●子供に対して「せめてこれくらいはできるようになって欲しい」という気持ちはNG
●苦戦している時は、叱るよりも課題設定の見直しを考える
●発達の最近接領域の考え方は、仕事で人材育成をする時にも役立つ
●他人を変えることはできないが、サポートすることはできる。
人を育てるということは難しく、悩みの絶えない部分だと思いますが、色んな方法を試す選択肢の1つとして本日ご紹介した知識が役に立てば嬉しいです。
この記事は下記書籍を参考にしました。
本日も最後までご覧いただきありがとうございました!
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