2020年~2022年は製薬業界に転機となる出来事が発生しています。
「COVID-19」「毎年薬価改定」「相次ぐGEメーカーの不祥事」などがその筆頭です。
もともと製薬業界は再編(合併)の歴史が続いてきましたが、最近は落ち着いています。
しかし、業界全体に大きな環境変化が出ている状況下では、再度大きな再編(合併)が起こる可能性も十分あります。
そこで今回は、製薬業界の合併や内資と外資の国際競争力比較データを基にこれまでの流れをまとめました。
この記事はこんな方にオススメです。
国内製薬会社の合併・再編状況
それではまず、国内製薬企業の再編から見ていきましょう!
国内は、近年で最も大型案件だったのは、武田薬品工業のシャイアー買収でしょう。(2019年)
2000年~2010年は再編ラッシュで、中外製薬(2002年)・アステラス(2005年)・大日本住友(2005年)・第一三共(2007年)・田辺三菱(2007年)・協和キリン(2008年)MSD(2010年)などがありました。
その反動からか、2010年以降は分社化等はありますが、大きな再編案件は比較的落ち着いている状況です。
海外製薬会社の合併・再編状況
次に海外製薬企業の再編状況を見ていきます。
世界的に有名な企業の再編が何度も行われています。
特にファイザーはM&Aを積極的に行っている印象があり、アストラゼネカ買収断念(2014年)や節税目的と批判されたアラガン買収断念(2016年)など、実現していないものの、活発に動いた案件もあります。
日本のパートでも触れましたが、武田薬品工業のシャイアー買収はインパクトが大きかったです。(2019年)
他に最近の例では、ブリストル・マイヤーズ スクイブのセルジーン買収(2019年)や、アッヴィがアラガンを買収(2020年)したことが話題になりました。
余談ですが、日本国内のセルジーンMRさんは今回の買収案件に伴い、全員ブリストル・マイヤーズ スクイブに加わった訳ではありません。
買収に際して乾癬領域部門は事業売却されたため、その事業を買い取ったアムジェンに乾癬部門の人員は移籍となりました。
世界の製薬会社上位30社の医薬品売上高比較
国内外で合併や買収が行われている背景には、研究開発に多額の費用を要することからメガファーマでは一定の規模も大事な要素になってきます。
そこで、2019年度の世界売上上位30社を確認してみましょう。
日本では、武田薬品工業・アステラス製薬・第一三共・大塚HDの4社がランクインしています。
【内資vs外資】国内医療用医薬品市場における売上比較
ここからは国内市場に関するデータを見ていきます。
まず企業数ですが、2018年時点で国内の製薬企業数は299社でした。(出典:日本製薬工業協会 DATABOOK2021)
次に、内資系と外資系の医療用医薬品売上高を見てみましょう。
2017年度医療用医薬品売上
●内資系⇒265社:売上高7兆8363億7300万円
●外資系⇒33社:売上高1兆9620億9300万円
●合計⇒298社:売上高9兆7984億6600万円
引用:日本製薬工業協会DATA BOOK2021
内資系企業は、1社あたりに換算すると少なく見えますが、一般用医薬品を販売する会社も製薬企業数の母数に入っている点に注意が必要です。
2004年・2018年は大手企業を含む相当数の企業が集計対象から漏れ、実態から乖離していると推量されたため、転載していません。
国内医薬品売上高の上位集中度
国内市場の売上高上位集中度はどうでしょうか?
上位30社で全体の約80%を占め、残り283社で約20%を占めるという、パレートの法則が形成されていることが分かります。
尚、このデータは医薬品全体の売上高なので、医療用のみではないことから前項と集計企業数の母数が異なる点に注意が必要ですが、全体感を捉える意味では的を捉えていると思います。
産業競争力会議で菅官房長官が触れた「数が多く、規模が小さい」はこのような国内データからも的外れではないことが読み取れますね。
2004年・2018年は大手企業を含む相当数の企業が集計対象から漏れ、実態から乖離していると推量されたため、転載していません。
薬効分類別の医薬品生産額(日本)
国内市場は、薬効分類別にみるとどんな製剤が生産されているかを見てみましょう。
製薬業界は在庫回転率(棚卸回転率)は他産業と比較して良くない(長い)ので、生産=売上とは必ずしも言い切れませんが、トレンドを見る上での参考にはなると思います。
1兆円を超える生産額は、腫瘍用薬とその他の代謝性医薬品の2つでした。
2019年度医薬品生産額(日本)
●総生産額⇒9兆4859億8800万円
●医療用医薬品総生産額⇒8兆6628億2200万円
●医療用医薬品1位⇒腫瘍用薬 1兆1617億3100万円(13.4%)
●医療用医薬品2位⇒その他の代謝性医薬品 1兆1120億5100万円(12.8%)
●医療用医薬品3位⇒循環器官用薬 9841億4400万円(11.4%)
●医療用医薬品4位⇒中枢神経系用約 9830億7100万円(11.3%)
引用:日本製薬工業協会DATA BOOK2021
特に腫瘍用薬は輸入品の比率が92.4%と圧倒的で、外資系企業の力の強さを感じます。
ちなみに、過去は循環器官用薬が長らくTOPでしたが、腫瘍用薬が1位なのは時代の流れを感じるなと思う方もいるのではないでしょうか。
【研究開発費】国内製薬会社と海外製薬会社の比較
ここからは企業の国際競争力について、内資系企業と外資系企業で比較しながら確認してみましょう。
製薬企業の競争力は「どれだけ画期的な薬剤を世に出せるか?」が非常に大きいと思います。
そのために、莫大な研究開発費を投じて、新薬のタネを探し続けています。
そこで、6つの切り口で研究開発費について確認してみます。
日米欧製薬企業の研究開発費率と営業利益率のトレンド比較
日米欧から代表的な8社を抽出し、営業利益率・研究開発費率・その他販管費率・原価率の推移をみてみましょう。
日本企業は、営業利益率の低さとその他販管費の多さが特徴的です。
その他販管費は人件費も含まれますので、国内で早期退職が続く背景にはグローバル視点でコスト是正の流れにあるのかもしれません。
日本と米国の製薬企業における研究開発費の比較
次に、日米の長期研究開発費トレンドを比較してみます。
一目瞭然で1社当たりの研究開発費(金額)は米国に軍配が上がります。
売上に占める研究開発費率は日米で同程度の水準ですが、そもそもの売上額が米国企業は圧倒的に多いため、投資できる資金力に大きな差が生じています。
1社当たり 研究開発費 | 研究開発費率 (対売上高) | |
日本 | 約1633億 (2019年) ※10社平均 | 17.3% (2019年) |
米国 | 約7449億 (2019年) ※7社平均 | 18.2% (2019年) |
【研究開発費】国内大手製薬企業20社のデータ
国内企業の研究開発費を個別にチェックしていきましょう。
国内大手20社のデータを抜粋してご紹介します。
研究開発費推移(金額ベース)
武田薬品工業の4923億8100万円が最大で、アステラス製薬、大塚HDが続きます。
研究開発費が1000億円以上の企業は6社でした。
研究開発費が1000億円以上の企業(2019年)
●武田薬品工業⇒4923億8100万円
●アステラス製薬⇒2242億2600万円
●大塚HD⇒2157億8900万円
●第一三共⇒1974億6500万円
●エーザイ⇒1401億1600万円
●大日本住友製薬⇒1151億1200万円
研究開発費推移(対売上比)
次に、国内企業の研究開発費を対売上比で企業別に見てみましょう。
先ほどの10社平均値では17.3%でしたが、対売上比20%を超える投資を行っている会社は5社でした。
この比率が高ければ良いというものではありませんが、製薬会社というビジネス特性上、研究開発にどの程度投資しているか?という指標は、企業の将来性を見極める上で重要だと思います。
研究開発費が対売上比20%以上の企業(2019年)
●大日本住友製薬⇒23.8%
●小野薬品工業⇒22.8%
●田辺三菱製薬⇒20.9%
●第一三共⇒20.1%
●エーザイ⇒20.1%
【研究開発費】世界大手製薬企業21社のデータ
ここからは、海外企業の研究開発費を個別にチェックしていきましょう。
世界の大手21社のデータを抜粋してご紹介します。
研究開発費推移(金額ベース)
便宜上、1ドル=100円、1ユーロ=120円、1ポンド=140円、1スイスフラン=110円、1デンマーククローネ=17円で計算します。
日本は武田薬品工業の約4924億円が最大でしたが、海外は4000億以上が14社で、中には1兆円超えの企業もあります。
世界はケタ違いですね・・。
研究開発費が4000億円以上の企業(2019年)
●ロシュ⇒1兆4051億4000万円
●J&J⇒1兆1355億0000万円
●メルク(USA)⇒9872億0000万円
●ノバルティス⇒9402億0000万円
●ギリアド⇒9106億0000万円
●ファイザー⇒8650億0000万円
●サノフィ⇒7221億6000万円
●バイエル⇒6410億4000万円
●アッヴィ⇒6407億0000万円
●グラクソスミスクライン⇒6395億2000万円
●ブルストルマイヤーズスクイブ⇒6148億0000万円
●アストラゼネカ⇒6059億0000万円
●イーライリリー⇒5595億0000万円
●アムジェン⇒4116億0000万円
特にロシュは研究開発費のTOPが定位置で、1兆円超えの研究開発費企業の常連になっています。
グローバルでみると、国内製薬企業との格差を感じますね。
研究開発費(対売上比)
海外企業の研究開発費を対売上比で企業別に見てみましょう。
ギリアドの対売上比でみた研究開発費は驚愕の40.6%でした。
様々な事情があったにせよ、この数値はすごいと思います。
研究開発費が対売上比20%以上の企業(2019年)
●ギリアド:40.6%
●イーライリリー:25.1%
●アストラゼネカ:24.8%
●ブルストルマイヤーズスクイブ:23.5%
●メルク(USA):21.1%
●ロシュ:20.8%
【特許件数】国内市場における医薬品関連特許公開件数
最後に、特許の件数で見ていきます。
こんな疑問を持たれた方もいると思います。
そこで、日本における医薬品関連の特許公開件数データを企業別にチェックしてみましょう。
国内企業の特許公開件数
国内企業の件数を2013年~19年まで調査しています。
武田薬品工業の43件、興和36件、第一三共28件が上位3つの企業でした。
海外企業の特許公開件数
国内企業の件数を2013年~19年まで調査しています。
ノバルティスの45件、サノフィ35件、ファイザー33件が上位3企業でした。
まとめ
今回は「国際競争力」「規模と数」を中心に、データを交えながら解説しました。
現状の国内企業は、規模で海外大手製薬企業に完敗していますので、戦略としては得意領域・新規性の高い製剤で海外市場に勝負している状況です。
しかし、武田薬品工業が国内では先陣を切って世界で戦える規模となるM&Aを行ったように、今後は他の国内企業も海外戦うための再編が始まるかもしれませんね。
本日も最後まで読んでいただいてありがとうございました!
データ引用元:日本製薬工業協会DATA BOOK2021アクセス先(外部リンク)
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