日本の医療用医薬品市場は低成長が続いており、内資系企業は厳しい環境になっています。
現在は、成長の見込める海外市場へ進出しなければ持続的な成長を描けない状況に陥っているのが正直なところだと思います。
しかし、海外に目を向けると規模が格段に大きいメガファーマが名を連ねており、日本企業は戦略的に開発競争を勝ち抜くことが求められています。
そこで今回は、最新データから国内製薬企業の「海外売上」と「メーカー別海外主要製品」ついてまとめてみました。
国内メーカーの海外戦略を知るにはピッタリの内容になりますので、ぜひ最後までご覧ください。
この記事で分かること
●世界の医薬品シェア
●国内製薬企業の海外売上比率
●海外売上高上位9社の海外製品調査(企業別)
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世界の医薬品市場シェア推移と日本市場の成長鈍化
2000年~2019年の20年間で世界の医薬品市場は約3倍を超える規模に成長しました。
●2000年:3,577億ドル⇒2019年:12,624億ドル
そのような中、日本市場の成長は鈍化し、世界シェアは約半分に低下したことで2013年以降は第3位の市場規模となっています。
中国の台頭で日本のシェアは7.0%へと低下していますが、国内医療用医薬品市場規模は約10兆円と横ばいで推移しており「日本が他国の伸びについていけていない」という状況になっています。
年平均成長率2014-2019 | |
中国 | +6.7% |
米国 | +4.3% |
欧州5ヵ国 | +4.0% |
日本 | -0.2% |
このような背景から、国内製薬企業が持続的に成長するためには「海外市場で売上を伸ばす必要性が高まった20年」と言えるのではないでしょうか。
そこで浮かぶのがこんな疑問です。
そこで、医薬産業政策研究所の報告からデータをご紹介します。
国内主要製薬企業14社の海外売上高比率は年々伸長している
国内製薬14社の2011年度~2019年度の連結売上高合計と海外売上高比率推移をご覧ください。(図3)
海外売上高比率は59.4%に上昇し、14社を個別にみると2011年度よりも2019年度の海外売上高及び連結売上高対海外売上高比が大きいのは14社中13社でした。
今後も国内市場は低成長が予想されるため、海外売上比率伸長を目指すトレンドは継続するでしょう。
このデータで私が注目したのは、国内と海外の売上比率が「海外は伸長」「国内は横ばい(やや低下)」になっている点です。
これは、日本国内市場だけでビジネス展開をすることは事業継続性の観点でリスクになるため、グローバル展開が必須であることを企業自らが数字で示していると感じました。
ちなみに、2019年度の世界大手企業でみた売上上位30社は以下の通りです。
【調査結果】内資系製薬会社の海外売上上位9社データ
先ほどご紹介した国内主要製薬企業の中から、海外売上高が上位であった9社の海外製品に関して、「対象疾患」「技術(モダリティ)」「開発地域」「開発及び販売方法」「創出起源」をチェックしていきましょう。
【調査方法】
●調査対象とした企業:アステラス製薬、エーザイ、大塚ホールディングス(大塚HD)、協和キリン、塩野義製薬、第一三共、大日本住友製薬、武田薬品工業、中外製薬の海外売上高上位9社
●データソース:各社ホームページ上で公表している2020年3月期決算報告資料(決算短信、決算短信補足資料、DATABOOK、FACT シート等)、および2021年3月期第2四半期決算報告資料を用いた。ただし、大塚 HD、協和キリン、中外製薬については決算月が12月であるため2019年12月期決算報告資料および2020年12月期第3四半期決算報告資料に記載の情報を用いた。
●薬剤一般名、対象疾患領域、モダリティ、販売地域、上市年、創出起源等の追加情報:明日の新薬(株式会社テクノミック)、Cortellis Competitive Intelligence(クラリベイト・アナリティクス)及び各社プレスリリース、ATC分類は明日の新薬、KEGG DRUG Database6)を用いた。
●調査項目:製商品名(一般名/代表的な商品名)、主な対象疾患領域(ATC 分類)、モダリティ、主販売地域、海外売上額(2019年度実績および2020年度予想)、海外上市年、創出起源(オリジン)及び海外開発企業、フェーズⅢ以降の開発品とその開発ステージ(ステージ更新情報については2020年12月末日までのプレスリリース情報等を反映)。
●抽出品目数:各社2019年度の海外売上製商品を売上高の大きい順に選択した。海外売上高が大きい企業については品目数を多めに選択し、最低でも医薬品事業売上の5割以上となるまでピックアップ。
引用:政策研ニュース 「国内主要製薬企業の海外売上高上位製商品の特徴」
この調査結果については、各企業別の結果と著者のコメントを引用してご紹介します。
私からの個別企業に対する見解やコメントは客観性に欠ける部分が出るとよくないので、ここは引用のみとさせていただきますのでご了承ください。
アステラス製薬の海外売上製品:疾患・金額・開発
アステラス製薬の2019年度の海外売上上位製品は順に、イクスタンジ、プログラフ、ベタニス、Lexiscan、ハルナール、ファンガード、そしてベシケアと続いている。
2020年度の売上予想額は、抗腫瘍薬であるイクスタンジが大きく売り上げを伸ばす予想値となっている一方で、特許切れによる独占販売期間が切れたプログラフ、ハルナール、ファンガード、ベシケアは徐々にその海外売上額を減らしている。
イクスタンジ及びLexiscanは導入品であるが、主に低分子の自社オリジン医薬品を自社で海外開発し、自社販売網を通じて販売していることが特徴。
引用:政策研ニュース 「国内主要製薬企業の海外売上高上位製商品の特徴」
武田薬品工業の海外売上製品:疾患・金額・開発
2019年度の海外売上高上位製品は、炎症性腸疾患薬のエンティビオ、血液分画製剤のガンマガード、精神疾患薬のビバンセ、トリンテリックス、血友病薬のアドベイト、抗腫瘍薬のベルケイド、ニンラーロ、リュープリン、遺伝性血管性浮腫治療薬である Takhzyro、などである。
トリンテックスはルンドベックから導入後、米国での開発権を得た製品であり、リュープリンは自社オリジンのペプチド製剤であるが、それ以外の製品は海外企業の買収によって加わったものとなっており、疾患領域及びモダリティも多種多様である。
引用:政策研ニュース 「国内主要製薬企業の海外売上高上位製商品の特徴」
エーザイの海外売上製品:疾患・金額・開発
2019年度の海外売上上位製品は抗腫瘍薬であるレンビマ、ハラヴェンを筆頭に、精神神経疾患治療薬のイノベロン、メチコバール、アリセプト、フィコンパが続いている。
2020年度はレンビマの売上高がさらに増加すると予想されている。
すでに特許が切れているアリセプトの主販売領域が欧米から中国を含めたアジア、ラテンアメリカへとシフトしている。
レンビマの販売額の増加だけでなく、レンビマに関するマイルストン、一時金収入を含むライセンス収入及び医薬品原料などに係る事業も海外売上高に大きく貢献している。
がん疾患及び中枢神経系疾患を柱とした自社オリジンの低分子医薬品を自社販売網を通じて海外展開している。
引用:政策研ニュース 「国内主要製薬企業の海外売上高上位製商品の特徴」
中外製薬の海外売上製品:疾患・金額・開発
2019年度の海外売上高上位製商品は、自己免疫疾患治療薬のアクテムラ、抗腫瘍薬のアレセンサであり、主に親会社であるRocheへの輸出による収入である。それ以外に海外売上高に大きく寄与したものとしてはロイヤルティ等収入及びその他の営業収益であり、この中には血友病薬のヘムライブラに関するマイルストン収入等が含まれている。
2020年度はヘムライブラの輸出額が拡大するとともにロイヤルティ等収入の増加が予想されており、海外売上高の大幅な増加が見込まれている。
アレセンサは自社オリジンの低分子医薬品であるが、アクテムラ、ヘムライブラは自社オリジンの抗体医薬品である。
引用:政策研ニュース 「国内主要製薬企業の海外売上高上位製商品の特徴」
大塚HDの海外売上製品:疾患・金額・開発
2019年度の海外売上上位製品は大塚製薬のエビリファイメンテナを含めたエビリファイ関連製品、精神疾患治療薬のレキサルティ、希少疾病の常染色体優性多発性嚢胞腎への追加効能を持つサムスカ、ジンアークと大鵬薬品の抗腫瘍薬であるロンサーフが続いている。
2020年度はジンアークの売上高の伸長が予想されている。
いずれの製品も自社オリジンの低分子医薬品であり、海外自社開発を経て欧米を中心に自社販売展開している。
引用:政策研ニュース 「国内主要製薬企業の海外売上高上位製商品の特徴」
大日本住友の海外売上製品:疾患・金額・開発
2019年度の海外売上高上位製品は精神疾患治療薬のラツーダ、COPD 薬のブロバナ、抗生剤のメロペン、抗てんかん薬のアプティオムと続き、2020年度も同様の売上高が予想されている。
自社オリジンの自社開発品ラツーダを北米に拠点を持つ子会社Sunovionが販売し、メロペンは中国、他で自社販売している。
製品はいずれも低分子医薬品となっている。
引用:政策研ニュース 「国内主要製薬企業の海外売上高上位製商品の特徴」
塩野義製薬の海外売上製品:疾患・金額・開発
2019年度の主な海外売上高はHIVフランチャイズ製品であるテビケイ、トリーメク、ジャルカ、ドウベイトの導出に関連するものと、代謝疾患薬のクレストールの導出関連収入である。
2020年度は、クレストールに関しては特許切れに伴い売上高は減少するが、HIVフランチャイズ製品については前年と同程度の売上高が予想されている。
引用:政策研ニュース 「国内主要製薬企業の海外売上高上位製商品の特徴」
第一三共の海外売上製品:疾患・金額・開発
2019年度の海外売上高上位製品は高血圧薬のオルメテック、抗凝固薬のリクシアナ、抗貧血薬のインジェクタファー及びヴェノファーと続いている。
海外子会社のアメリカン・リージェントの製品以外は自社オリジンかつ自社開発品の低分子医薬品である。
2020年度は自社オリジンで AstraZeneca との共同開発している抗体・薬物複合体(ADC)医薬品であるエンハーツが海外売上高に大きく寄与すると予想されている。
引用:政策研ニュース 「国内主要製薬企業の海外売上高上位製商品の特徴」
協和キリンの海外売上製品:疾患・金額・開発
2019年度の海外売上上位製品は骨疾患治療薬のクリースビータ、子会社の製品であるアブストラル、抗腫瘍薬のポテリジオ、導出品であるファセンラと続いている。
2020年度はファセンラの売上高の大幅な増加が予想されている。
ProStrakan社(現Kyowa Kirin)の開発製品であったアブストラルを除く製品は自社オリジンの抗体医薬品であり、海外の自社販売網を通して販売を行っている。
一方自社オリジンの抗体医薬品のファセンラについてはAstraZenecaへ導出しロイヤルティ収入を得る形となっている。
引用:政策研ニュース 「国内主要製薬企業の海外売上高上位製商品の特徴」
まとめ
今回は、世界の医薬品市場と国内企業の海外売上に関してご紹介しました。
● 世界の医薬品市場は約3倍に成長しているが、日本市場の成長は横ばい
●国内製薬企業の海外売上比率は年々増加し、主要企業の平均値は約60%に達している。
●海外売上高上位9社の海外製品は年間売上1000億超の製品が複数存在するものの、全体的には大型化が少ない。
ほぼ全ての製薬企業がグローバル化を見据えた戦略を立てています。
ただ、規模の力では太刀打ちできない部分があるため、領域を絞って特徴的な創薬で海外進出する会社が増加してきているように感じます。
各社の得意領域やラインナップを見ながら、業界人・社員・投資家などの目線で評価してみると面白いですよ。
本日も最後までご覧いただきありがとうございました。
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