最近は「資産運用を始めた!」という人が身近に増えてきたように感じています。
当記事をご覧いただいている方の中にも「老後資金」を目的に資産運用を始めた方がおられると思いますので、会社員は該当する「企業型確定拠出年金」について解説していきます!
今回は、こんな方にオススメです。
先にこの記事の要点をご紹介します。
【企業型確定拠出年金のポイント】
●3つの税制優遇措置がある
●転職や退職時も年金資産の持ち運びが可能
●60歳まで原則引き出し不可
●年金受け取り方法を決める際は退職控除の5年ルールを確認する
●運用可能な商品が会社ごとに決められている
●インデックスファンド、分散、低コストの商品を選ぶ
●15年以上の運用期間をとれるなら株式投資信託
●株式投資信託は先進国株を軸に構成がオススメ
●インデックス、オープンと記載されている商品を選択する
●アクティブと記載されている商品は回避する
※当記事では商品に関して触れていますが、銘柄の推奨や利益の確約をするものではありません。元本割れの可能性もありますので、投資は自己責任でお願いします。
【日本の年金制度の仕組み】会社員の年金は3階建て
日本の年金制度は、全国民に共通した「基礎年金」を基礎に「被用者年金」「企業年金」の3階建ての体系となっています。
ですので、基本的にサラリーマンの年金は「3階建て」の体系になっています。
チェックポイント
●1階:国民年金(基礎年金)
●2階:厚生年金保険
●3階:企業年金(確定給付企業年金・企業型確定拠出年金・厚生年金基金)
●その他:個人型確定拠出年金「iDeco」
※個人型確定拠出年金は3階部分と解釈もできますが、違いを明確にするために記載を分けました。
会社で運用されている代表的な制度が企業年金の「確定給付企業年金」と「企業型確定拠出年金」となります。
個人レベルで将来の年金額を変えられる余地があるのは「企業型確定拠出年金」と「iDeCo」になります。
このような3階建ての話を聞くと、
こう思われるかもしれませんが、それだけ社会保険料を納めているので、残念ながらお得という表現は難しいと思います。
では、次の項目から「企業型確定拠出年金」について解説していきます。
企業型確定拠出年金(企業型DC)のメリットと注意点
企業が拠出した掛金を個人ごとに運用指図し、運用総額が給付額となる企業年金制度です。
「マッチング拠出」という制度を行っている会社の場合、追加で個人が掛金を拠出することも可能です。(上限額あり)
企業型確定拠出年金の概要
●企業が掛金を毎月従業員の年金口座に積み立て(拠出)してくれる
●従業員自らが年金資産の運用を行う
●運用成績によって将来受け取れる退職金・年金が変動する
企業型確定拠出年金のメリットと注意点をご紹介します。
【企業型確定拠出年金のメリットと注意点】
●メリット①⇒3つの税制優遇措置がある
●メリット②⇒転職や退職時も年金資産の持ち運びが可能
●注意点①⇒60歳まで原則引き出し不可
●注意点②⇒年金受け取り方法と退職控除の5年ルール
●注意点③⇒運用可能な商品が会社ごとに決められている
それぞれの項目を解説していきます。
【企業型確定拠出年金のメリット①】3つの税制優遇措置がある
企業型確定拠出年金には主に3つの税制優遇措置があります。
3つの税制優遇措置メリット
①マッチング拠出による掛金は、全額所得控除になる⇒所得税・住民税が軽減されます。
②運用益が非課税になる⇒通常、運用益は約20%の税金がかかるが、全額非課税になる
③受け取り時に退職所得控除・公的年金等控除の対象になる⇒「一時金=退職所得控除」、「年金=公的年金等控除」
【企業型確定拠出年金のメリット②】転職や退職時も年金資産の持ち運びが可能
転職・退職の可能性を考えると、運用した掛金がどうなるか不安という方は、ご安心ください。
確定拠出年金は、年金資産を持ち運び(ポータビリティ)が可能です。(移管手続きは必要)
【企業型確定拠出年金の注意点①】60歳まで原則引き出し不可
積み立てた年金資産は、原則60歳までは引き出すことができません。
運用に回したお金を急遽引き出したくても60歳まで資金拘束されますので、非課税だからと無計画に拠出金を高く設定することは避けましょう。
特例で中途解約が認められているケースもありますが、特殊な事例を除くと基本的には難しいという認識でOKです。
中途解約の可能性がある方は、ご所属企業に制度問い合わせをすることをおすすめします。
【企業型確定拠出年金の注意点②】年金受け取り方法と退職控除の5年ルール
原則、60~75歳までの希望する時期に、「一時金」「年金」「一時金と年金の併用」を選択して受け取ることができます。
※2022年4月~受け取り開始時期の幅が60歳から75歳になるまでに拡大されました。
受け取る年金は「退職所得控除」or「公的年金等控除」の対象になることが多いですが、100%非課税にはなりません。
まずは控除額について比較してみましょう。
一時金で受け取り(一括) | 年金で受け取り(分割) | |
所得の種類 | 退職所得 | 雑所得 |
所得控除の種類 | 退職所得控除 | 公的年金等控除 |
所得控除の計算方法 | ●勤続年数20年以下⇒40万円×勤続年数 ●勤続年数20年以上⇒800万円+70万円×(勤続年数-20年) | ●65歳未満⇒最低控除額は60万円 ●65歳以上⇒最低控除額は110万円 ※他の所得によって異なる |
次に、受け取り額の計算方法を確認していきましょう。
- 一時金で受け取りの場合(退職所得の計算方法)
- 退職所得=(退職金等の収入金額-退職所得控除額)×1/2
※勤続年数が控除額に影響する
一時金を受け取る場合は「退職所得控除」の対象になります。(退職金にかかる所得税を一定額控除する)
控除金額は勤続年数によって異なり、退職所得控除後の課税所得金額に対して、所得税が課税されます。
- 年金で受け取りの場合(雑所得の計算方法)
- 雑所得=公的年金等の収入金額-公的年金等控除額
※公的年金と合算すると控除額を超える可能性が高くなる。
厚生年金も受け取れる会社員の場合、非課税の控除上限枠を超える可能性があります。
超過すると「公的年金等に係る雑所得」として計算されてしまうため、年金自体が収入とみなされて、非課税運用益を年金受け取り時の課税で帳消しになる可能性もゼロではありません。
- 一時金と年金の併用で受け取りの場合
- 一時金として受給し、退職所得控除をオーバーする部分は「年金」として受け取る方法です。
企業が認めている場合は、ライフプランに応じて計算しながら調整することで効率的になる場合があります。
退職控除の注意点
退職控除には「会社からの退職金」も計算に含まれます。
ですので、通常は会社からの退職金が多い人ほど確定拠出年金の一時金受け取りで控除の恩恵が少なくなります。
そこで、退職控除の恩恵を最大化したい人は一時金受け取りで以下の2つを覚えておきましょう。
①確定拠出年金の一時金受け取り時期は会社の退職金を受け取る5年以上前に設定する。(例:65歳で会社の退職金を受け取る場合、60歳で確定拠出年金の一時金を受け取る)
②早期退職などで退職金を受け取った人は、受け取り後20年の期間を空けてiDeCoの一時金を受け取る(例:50歳で会社の退職金を受け取った人は70歳以降に確定拠出年金の一時金を受け取る)
こう思った方もご安心ください!笑
ざっくりと記憶するなら「基本的には一時金で受け取る方がお得」という認識で十分です。
それも覚えにくい方は「受け取り方を適当に決定すると、税金を多く納めることになる」ということだけでOKです。
【企業型確定拠出年金の注意点③】運用可能な商品が会社ごとに決められている
会社が運用可能商品リストを用意しており、従業員はリストの中から自分の投資方針に合った商品を運用することになります。
こんなことを思った人は多いと思います。
企業型確定拠出年金の難点を「商品ラインナップの劣悪さ」と表現する方がいるのはこのような背景があります。
手数料の安いインデックスファンドがあれば良いのですが、もし全くなければ別の戦略を立てる方法もありです。
詳細な銘柄選択方法はこの記事の後半でご紹介しますので、ご参考ください。
企業型確定拠出年金は「配分変更」と「スイッチング」が重要
企業型確定拠出年金やiDeCoをされている方は「配分変更」と「スイッチング」をご存知でしょうか?
確定拠出年金では、年齢や環境変化に応じて「配分変更」と「スイッチング」が容易にできることがメリットです。
とても重要な知識になりますので、それぞれの特徴をご紹介します。
「配分変更」の考え方と活用方法
こう思った方は「配分変更」で比率を調整することが可能です。
- 確定拠出年金の「配分変更」
- 毎月の掛金で購入する、運用商品の種類や配分割合を変更すること。
【例】リスク(リターン)の大きい商品から小さい商品に投資比率を変更したい。
【例】リスク(リターン)の小さい商品から大きい商品に投資比率を変更したい。
※これから購入(積み立て)する商品の比率を変更するだけなので、手数料はかからない。
「スイッチング」の考え方と活用方法
こう思った方は「スイッチング」で比率を調整することが可能です。
- 確定拠出年金の「スイッチング」
- これまで積み立ててきた資産の商品構成などを変更すること。
【例】60歳まであと少しなので利益を確保するために元本変動型商品Aを売却し、元本確保型商品Bに変更する。
【例】株価の変動で商品CとDの資産比率が減り、商品Eの割合が一時的に増えてしまったので、資産配分割合を元に戻す。
スイッチング自体に手数料がかかりませんが、売却時手数料が設定されている商品の場合、売却金額から手数料が差し引かれます。
配分変更とスイッチングの使い分け
私の場合、50歳までの運用期間が15~20年は確保できるなら、株式100%でインデックス型の投資信託を選択します。
具体的には、「外国株インデックスファンド80%」「国内株インデックスファンド20%」の比率で運用を行っています。
そして、50歳を超えたタイミングで債券比率を上げていき(配分変更)、必要に応じてスイッチングを行いながら株式50~60%、債券50~40%に調整していくイメージで考えています。
【企業型確定拠出年金の運用】銘柄選定のポイント
確定拠出年金は会社によって商品ラインナップが異なりますので、選定方法のポイントをご紹介します。
投資信託を選択する場合、以下の5点を意識するだけで銘柄選定の質が高くなりますよ。
銘柄選定のポイント
●元本確保型と元本変動型の特徴を活かしてリスクを調整する
●元本変動型はインデックスファンドを検討する
●手数料の安いファンドで運用する
●商品の純資産総額が少ない商品は避ける
●分散性を意識する
それぞれ解説していきます。
元本確保型と元本変動型の特徴を活かしてリスクを調整する
確定拠出年金の運用商品は、主に「元本確保型」と「元本変動型」に大別されます。
元本確保型と元本変動型の主な商品は以下の通りです。
元本確保型と元本変動型の主な商品
●元本確保型⇒「定期預金」「保険商品」
●元本変動型⇒「国内株式」「国内債券」「外国株式」「外国債券」「バランス」など
それぞれのメリット・デメリットは主に以下の通りです。
メリット | デメリット | |
元本確保型 | 元本割れが発生しない | 収益性に乏しく、インフレに弱い |
投資信託等 | 高い利回りが期待できる | 元本割れのリスクがある |
60歳までの期間を逆算し、リスク許容度に応じて「元本確保型」と「元本変動型」 のバランスを調整していくことが大切です。
元本変動型はインデックスファンドを検討する
元本変動型の商品を運用する場合は、基本的に「インデックスファンド」がおすすめです。
企業型確定拠出年金やiDeCoは60歳までの長期投資が前提となりますので、「長期的に成長が期待できる商品」で運用することが大切だからです。
インデックスファンドとは株価指数などの「指標に連動した運用」を目指す商品です。
商品名は様々ですが、「○○インデックス」「○○インデックスファンド」「○○オープン」という名前になっている商品はインデックスファンドの可能性が高いです。
ここではまず、代表的な指数をご紹介します。
- 日本株の代表的な指数
- ●TOPIX⇒東証1部上場の全銘柄(約2,159)を対象に時価総額を指数化したもの
●日経平均⇒日本経済新聞社が、東証1部上場銘柄から市場流動性の高い225銘柄を選定し、平均株価を指数化したもの
- 米国株の代表的な指数
- ●S&P 500⇒ニューヨーク証券取引所、NASDAQに上場している流動性がある大型株から選ばれた500銘柄の時価総額を指数化したもの
●ダウ・ジョーンズ工業株価平均⇒ニューヨーク証券取引所、NASDAQに上場している30銘柄の平均株価を指数化したもの
- 全世界株の代表的な指数
- ●MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス⇒先進国23カ国と新興国26カ国の大・中型株を 構成銘柄の対象に時価総額加重平均で算出されている。
●MSCIコクサイ・インデックス⇒日本を除く先進国22ヵ国に上場する大・中型株を構成銘柄の対象に時価総額加重平均で算出されている。
- 債券の代表的な指数
- ●NOMURA-BPI 総合指数⇒日本の公社債市場の動向を表した、インカムゲインを考慮した時価総額加重平均型の指数。
●シティグループ 世界国債インデックス⇒先進国国債の動向を表す代表的な指数
手数料の安いファンドで運用する
投資信託は自分の代わりに機関が運用してくれているので、運用に伴う手数料として私たちが支払う費用が発生します。
運用期間中(保有中)に必ず発生する費用となりますので、安いものを選択することがとても大切です。
理由は「利益は不確定ですが、費用は確定だから」です。
1%を超える商品は手数料が高いので避ける方が良いと思います。
- 投資信託を保有している際に発生する費用の計算方法
- 信託報酬等+隠れコスト=実質コスト(必ず発生する費用)
信託報酬等を確認する方法は、「運用報告書」や「交付目論見書」に記載されています。
隠れコストは、「運用報告書」を確認すると把握できます。
商品の純資産総額が少ない商品は避ける
純資産総額とは投資信託の規模を表す数字のことで、総額は大きい方が良いです!
たとえば、10人の投資家が100万円ずつ投資したと仮定すると、合計1000万円が「純資産総額」です。
そして、その1000万円でファンドマネージャーが運用し、1500万円に値上がりした時の純資産総額は1500万円になります。
個人的には最低でも50億~100億以上あると安心かなと思っています。
分散性を意識する
老後資金になりますので、リスク許容度に応じて地域・資産を分散させながら運用を検討してみてはいかがでしょうか。
例えば以下のようなイメージです。
リスク許容度に応じた地域・資産の分散イメージ
●リスクを取れる人⇒先進国株(外国株)85~100%、日本株1~15%の比率で調整
●リスクを少し取りたい人⇒先進国株(外国株)25%、日本株25%、先進国債券(外国債券)25%、日本債券25%の比率で調整
●リスクを取りたくない人⇒元本確保型を中心に債券などを組み込む
●60歳が近い人⇒元本確保や債券比率を徐々に増やしていく
個人的には、先進国株(外国株)のインデックスファンド中心の運用をオススメします。
もし、全世界株(日本含む)が商品ラインナップにある場合は、それ1本で十分に分散された商品なので、他に追加しなくても良いと思います。
日本株の組み込みに関しては賛否あると思いますので、それぞれの代表的意見を記載します。
この点も含めて皆さんの好みで配分を検討いただければと思います。
こう思われた方は、参考までに3種類のeMaxis slimシリーズ目論見書から、構成比率を並べてみましたので、参考にしてみてはいかがでしょうか?
確定拠出年金の運用商品にeMaxis slimシリーズがなくても、似たような構成のインデックスファンドを選択したり、2つのファンドを組み合わせて類似の構成にするのもありだと思います。
まとめ
今回は、企業年金の中でも特に私たちがコントロール可能な「企業型確定拠出年金」を中心にご紹介しました。
ポイントは以下にまとめましたので、ご参考ください。
【企業型確定拠出年金のポイント】
●3つの税制優遇措置がある
●転職や退職時も年金資産の持ち運びが可能
●60歳まで原則引き出し不可
●年金受け取り方法を決める際は退職控除の5年ルールを確認する
●運用可能な商品が会社ごとに決められている
●インデックスファンド、分散、低コストの商品を選ぶ
●15年以上の運用期間をとれるなら株式投資信託
●株式投資信託は先進国株を軸に構成がオススメ
本日も最後まで読んでいただきありがとうございました!
資産運用に関連した記事を以下にご紹介します。
リスクを高くせずに債券を組み込みながら運用したい方は年金を運用するGPIFの投資方針が参考になりますよ。
iDeCoについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
資産運用をするなら、まずはNISAを利用する事がオススメです。
リスク許容度は人によって様々です。リスクに応じた運用方針を知りたい方はこちらをご覧ください。
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