みなさんのお住まいは「持ち家」or「賃貸」のどちらでしょうか?
筆者の勤務する製薬業界では「会社の家賃補助制度」や「単身赴任」などを理由に賃貸物件を利用する人が身近にたくさんおられます。
賃貸物件はオーナーさんから「借りている」という立場なので、修繕費や退去費でトラブルが起きやすい点に注意が必要です。
悪徳な不動産業者だと過剰請求されている可能性もありますよ。
私たち利用者が最低限の知識を持つことで、入居中の設備修繕費や退去費用を過払いするリスクが低くなります。
この記事では、賃貸生活10年以上の筆者が「修繕」や「交渉」をする上で役に立つ知識と事例を解説します。
この記事の要約
●基本的に賃貸物件で入居者の過失がない修理は、貸し主負担。
●借りた方の故意・過失等で壊してしまった場合は入居者(賃借人)が修理する
●退去時に新品の状態に復元する必要はない。
●契約書の文言や特約に必ず目を通して不利な条件は改善交渉をする
●不動産業者とのやりとりはメールで記録に残す
●ガイドラインや民法をもとに相談はOKだが、クレーマーにならないようにする
賃貸に住むなら「ガイドライン」と「民法」の知識が必須!
私たち利用者は「賃貸契約のルール」を把握しておくことが大切です。
ここでのルールとは、「ガイドライン」と「民法」の2つです。
- ガイドライン⇒国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
- 民法⇒賃貸借契約に関するルール見直しの部分
法的拘束力は「民法>ガイドライン」になりますが、ガイドラインも判例の判断基準とされているため、重要な指針になります。
心配しなくても大丈夫ですよ!
かんたんな表現や事例を出しながら解説していきます。
ガイドラインと民法の知識は「契約締結前~入居~退去」まで、多くのシーンで役立つ知識です。
何も知らずに契約してしまった・・。
既に賃貸借契約を締結されている方は、一応、現在の契約書が有効なものと考えられますので「契約内容に沿った取扱いが原則」になります。
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、特に入居前の契約や退去時の費用の交渉で役立ちます!
このガイドラインは、全国の賃貸物件で発生する契約トラブルを踏まえ作成されました。
これをしっかり読み込むだけで格段に交渉力がUPし、損をする可能性は大きく減少しますよ!
ガイドラインの中で私たちが知っておくべきポイントは次の4点です。
- ガイドラインのポイント
- ①原状回復の費用負担
②通常の使用範囲
③経過年数の考慮
④施工単位
順番に解説していきます!
ポイント①原状回復の費用負担
原状回復の費用負担は、賃貸で居住したことで発生した建物価値の減少のうち、「明らかに借りた方の故意・過失等で壊してしまった場合は入居者(賃借人)が修理する」と解釈されます。
つまり、普通に住んでいて自然に発生した汚れや損傷は入居者の責任ではなく、賃料に修繕費も含まれているので貸主はそこから修理費を出すということです。
原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義し、その費用は賃借人負担としました。
そして、いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとしました。
⇒ 原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すことではないことを明確化
引用:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
原状回復の定義だけで考えると「本来の状態に回復させる」のは必要です。
ただし、原状回復の費用負担に関しては、必ずしも入居者だけの責任で費用負担する必要はありません。
毎月支払っている賃料には修理費も含まれていると解釈されているにも関わらず、追加で修繕費を請求された場合は必ず業者に理由を確認しましょう。
普通に生活して発生する損傷の修繕費は「家賃に含まれている」と解釈されています。
例:フローリングの日常生活で無意識につく微細な傷など
ポイント②通常の使用範囲
通常の使用とは「一般常識の範囲内で使用して起こる範囲内」ということです。
私も同感です。
解釈は線引きが難しいので、ガイドラインには具体的な事例が2つ記載されています。
- 通常の範囲外と解釈されるパターン
- ①入居者(賃借人)が明らかに悪い使い方をして発生した損傷
②通常の使用範囲内で発生した損傷でも、その後の入居者(賃借人)の管理が悪く、「損傷が発生」or「損傷が拡大」した場合
このように、明らかに借りた側が「故意・過失等」で壊してしまった場合は、入居者(賃借人)が修理費を負担する必要があります。
逆に考えると、この2パターンに該当しない使用方法や管理を心がけておけばOKということです。
ポイント③経過年数の考慮
経過年数の考慮とは、建物や設備の経過年数を考慮して「年数が長いほど入居者(賃借人)の負担割合を減少させる」という考え方です。
- グレードアップ⇒賃貸人が負担(オーナー)
- 経年変化による通常損耗(劣化)⇒家賃に修理費が含まれる
- 通常の範囲を超える損耗や過失による劣化⇒賃貸人が負担(入居者)
入居者(賃借人)が退去時に「原状回復の義務がある毀損部分」を修繕する時は、基本的に全ての修理費用を負担する必要はありません。
つまり、「そもそも設備自体が時間の経過とともに価値が減少しているので、その分も入居者が費用負担して新品に交換する必要はない」ということです。
経過年数の事例
壁紙に傷をつけて自費で修繕が必要な場合、居住期間が2年・4年・6年では負担額が異なります。
ガイドラインでは壁紙の実質価値は6年でゼロと計算するため、6年以上住んだ賃貸の壁紙修理費用は支払う必要がないという解釈になります。
ポイント④施工単位
原状回復は「毀損部分の復旧」なので、最低限度の施工単位を修繕することが基本です。
つまり、少しの部分しか損傷していないのに、全部分の修理費をこちらが負担する必要はないということです。
例えば、入居者が壁紙を一部損傷したことがきかっけで、オーナーが壁紙を全面張替えを希望したとします。
この場合、入居者の費用は一部損傷した部分の修繕費のみ負担が基本です。
少しの傷だけなのに全体の修理費を請求された場合はボッタクリの可能性もあるため、すぐにサインせずちゃんと内訳(明細)を事前に確認しましょう。
民法改正のポイント6選
2017 年5月に成立した「民法の一部を改正する法律」が2020年4月1日から施行され、賃貸借契約に関するルールが見直しになりました。(約120年ぶりの改正)
改正後の民法は、入居後~退去まで活用できる重要な知識です!
今回は、特に賃貸契約で入居者が知っておくべき民法を6つご紹介します。
引用:法務省「民法新旧対照条文」、「賃貸借契約パンフレット」
- 民法のポイント
- ①賃貸人による修繕等(第606条)
②賃借物の修繕に関する要件の見直し(607条の2)
③賃借人による償還請求(608条)
④賃貸物の一部滅失等に因る賃料の減額等の見直し(611条)
⑤賃借人の現状回復義務及び収去義務等の明確化(621条)
⑥敷金に関するルールの明確化(622条の2)
ポイント①賃貸人による修繕等(第606条)
賃貸物件の貸主には物件の修繕義務があり、基本的に修繕の費用は貸主負担となります。
入居者が支払う家賃には通常使用に伴う損耗の費用も含まれているので、入居者が貸主(オーナー)へ修繕を依頼して拒否された場合は、民法606条を根拠に交渉可能です。
借主(入居者)に過失がある修繕は貸主の費用負担に該当しません。
一、賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
二、賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
引用:民法第六百六条
ポイント②賃借物の修繕に関する要件の見直し(607条の2)
賃貸物件の修繕が必要になった場合、次の3パターンに該当すれば、借主(入居者)の判断で修繕をしても貸主から責任を追及されることはないことが明確になりました。
- 借主(入居者)の判断で修繕しても貸主から責任を追及されないケース
- ①貸主が修繕の必要性を知っているのに対応しない。
②貸主に修繕を依頼したのに対応してもらえない。
③災害の修復等で急を要する時。
大前提として、賃貸物件は貸主(オーナー)の所有物です。
ですので、基本的には「借主(入居者)は無断で勝手に設備を変更したり修繕してはいけない」とされています。
借主(入居者)は勝手に修繕を行ってはいけませんが、貸主(オーナー)に依頼しても対応してくれない時は借主判断で修繕しても責任追及しないことが明文化されたのです。
ちなみに、借主(入居者)に明らかな過失がない場合は、修繕費用もすぐに貸主へ請求することが可能です。
賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一、賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二、急迫の事情があるとき。
引用:民法第六百七条の二
イメージは次の通りです。
・・・しばらく音沙汰なし
当然、修繕費用は後日請求します。
改正前の民法には,どのような場合に賃借人(入居者)が自分で修繕をすることができるのかを定めた規定はありませんでした。
ポイント③賃借人による償還請求(608条)
本来、貸主(オーナー)が負担するべき費用を借主(入居者)が支払った場合、すぐに借主が貸主へ請求できるということが定められています。
イメージとしては、修繕を依頼しても貸主が対応しない場合、自分で修繕対応した後に費用請求できる根拠として役立ちます。
一、賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
二、賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第196条第2項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
引用:民法第六百八条
ポイント④賃貸物の一部滅失等に因る賃料の減額等の見直し(611条)
賃貸物件の一部に不具合が生じた場合、割合に応じて家賃の減額が「当然」になりました。
もし、一部損耗などで利用可能な設備が不十分な場合、相応の家賃に減額するのが当たり前という解釈になります。
賃貸物件で支払う家賃は、利用可能な設備が「揃っている前提」で設定されています。
もし設備不良で使用不可の場合、相当分を家賃から減額するのが当然の対応と考えてよいのです。
改正前の民法では「滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる」という弱い表現でしたので、交渉次第では減額に応じてもらえないケースもありました。
それが今回の改正で交渉しやすい環境になったのです。
減額の目安は、国土交通省の「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集」に記載されていますので、ご参考ください。
一、賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
二、賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
引用:民法第六百十一条
ポイント⑤賃借人の現状回復義務及び収去義務等の明確化(621条)
入居者の原状回復義務や費用負担について次の文言が明文化されました。
- 「賃借物を受け取った後に生じた損傷について原状回復義務を負うこと」
- 「通常損耗や経年変化については原状回復義務を負わないこと」
つまり、「借主(入居者)は住み始めた後に生じた損傷を原状回復する義務はあるが、通常範囲の使用による損耗や経年劣化は対象外」ということです。
何でもかんでも費用負担を借主(入居者)に請求してくる業者には注意しましょう!
通常損耗・経年変化の解釈を巡ってトラブルになるケースは多い事案です。
改正前の民法には、原状回復義務及び収去義務等の文言が明確ではありませんでしたので、トラブルを減らすために今回明文化されたと推察されます。
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。
ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない 。
引用:民法第六百二十一条
ポイント⑥敷金に関するルールの明確化(622条の2)
判例に従い、敷金返還のルールが明確化されました。
- 敷金返還のルール
- ●賃貸借契約が終了して賃借物が返還された時点で敷金返還債務が生じる
●敷金返還額は、受領した敷金の額からそれまでに生じた金銭債務の額を控除した残額
残念ながら、稀に敷金を返済しない悪徳業者や悪徳オーナーがいます。
その背景には、改正前の民法には敷金の定義や敷金返還請求権の発生時期についての規定がなかったことも一因と考えられています。
今回の改正を踏まえて、悪徳な対応を受けた場合は民法を根拠に交渉しましょう。
賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
一、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二、賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
引用:第六百二十二条の二
上手に賃貸契約をするコツ3選
賃貸物件で契約や交渉をする時のコツを3つご紹介します。
- 上手に賃貸契約をするコツ3選
- ①契約書の条件を確認する
②賃貸物件で交渉する時は必ず記録を残す
③交渉を行う時は真摯に対応する
契約書の条件を確認する
候補物件が出てきた際には、事前に契約書を必ず確認しましょう。
特に、修繕に関する「契約条件」や「特約」の欄は確認が必須です。
ガイドラインや民法があっても、不利な条件の契約書にサインしてしまっていると交渉がうまくいかないケースもあります。
不動産業者によっては、次のような文言が契約書に記載されていることもあります。
- 要注意の契約書文言
- 「○○の修繕は借主が負担する」
「○○保険の加入を必須とする」
「特約:○○を賃借人が負担する」
入居者の知識が乏しいことを逆手にとってくる業者は少なからず存在します。
実際に私も、不利な条件の契約書を提示してきたので指摘したところ、掌を返したようにまともな契約書に差し替えてきた経験があります。
私の経験上、不当な契約書を作成してくる業者・物件は、修繕等で揉める可能性があるため、契約しない方が無難だと思います。
賃貸物件で交渉する時は必ず記録を残す
業者との交渉は、必ずメールでやりとりして記録を残しましょう。
記録のポイントは次の通りです。
- 記録のポイント
- ●入居時:部屋の状態を写真で記録に残す。
●不動産会社との連絡・交渉:メールで連絡する。
●退去時:部屋の状態を写真で記録に残す。
不動産会社との連絡は電話を利用したくなりますが、「言った言わない」のトラブルに発展しやすいので注意が必要です。
もし不動産業者が電話をかけてきても、最後にこのように伝えましょう。
今電話で話した内容を記録に残したいので、この後すぐに同様の内容をメールしてください。
記録のポイントは以下の通りです。
交渉を行う時は真摯に対応する
ガイドラインや民法を振りかざしてクレーマーにならないように注意しましょう。
交渉のコツは、オーナーさんにとってもメリットも考慮して相談をすることです。
貸主(オーナー)や不動産業者は敵ではありません。
建設的で理性的な交渉・相談を心がけるほうが上手くいきますよ。
実際に私も、家賃減額交渉を行った時は、貸主への御礼の気持ちも一緒に伝え、建設的な話し合いを行ったことで成功しました。
~家賃減額交渉メール例~
○○様
いつも○○に入居させていただきありがとうございます。
今回は、設備不具合に伴う賃料減額に関して連絡しました。
<内容>
現在、○○の一部使用不能が生じており、2020年4月改正の民法611条に則り、相当額の賃料減額が妥当と認識しています。
<設備状況>
○○の一部使用不能(当方の過失によるものではない。)
<希望額>
○○の一部使用不能により、○○円の支出が発生しているため、同額の賃料減額が妥当と考えています。
当物件に関して非常に満足しており、今後も引き続き入居を継続したいと思っておりますので、対応のご検討をよろしくお願いします。
まとめ
今回は、賃貸住宅の入居前・入居時・退去時のそれぞれで役立つ知識として国土交通省ガイドライン、民法を中心にご紹介しました。
この記事のまとめ
●基本的に賃貸物件で入居者の過失がない修理は、貸し主負担。
●借りた方の故意・過失等で壊してしまった場合は入居者(賃借人)が修理する
●退去時に新品の状態に復元する必要はない。
●契約書の文言や特約に必ず目を通して不利な条件は改善交渉をする
●不動産業者とのやりとりはメールで記録に残す
●ガイドラインや民法をもとに相談はOKだが、クレーマーにならないようにする
住居の費用は、1回で数千円~数万円程度変わってくるため、無知で損をするのは非常に勿体ないです。
知識さえあれば回避できる出費を減らし、家計管理や投資に回す資金にしていきましょう。
本日も最後まで読んでいただきありがとうございました!
賃貸物件で工事不要のホームルーターをお探しの方向け記事です。
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