みなさんの会社には従業員持株会制度がありますか?
投資経験がない方も、入社後によくわからないまま加入して現在まで至っている方もおられるのではないでしょうか。
従業員持株会は会社から奨励金も支給されるので魅力ある制度ですが、「絶対お得!」と妄信してしまい気付いた時には大損害を被った方もおられます。
そこで今回は、筆者の勤務する製薬会社を例にしながら、株式投資の基礎知識と持株会制度のメリット・デメリットを解説します。
この記事はこんな方向けです。
持株会が向いている人
●自社は最低3~5年後も業績の成長性が非常に高いと信頼(確信)できる。
●もし持株会がなくても、自分の証券口座から自社の株式を買う予定がある。
●既に分散投資ができており、余剰資金の投資先として持株会をしたい。(こまめに売却して資産が偏らないようにする)
持株会が向いていない人
●学費用、住宅購入費用など「減らしたくないお金」の投資先として考えている。
●持株会の仕組みも会社の将来性もよく理解しておらず、投資は全くしていない。
●投資の目的が老後の資産形成(長期投資)で、入金力が十分に確保できていない
持株会制度とは?
持株会制度とは、自分の給与から天引きで自社株を市場の株価に応じて購入する個別株投資です。
通常の証券会社経由で株式を購入する時との違いは、「奨励金」などの名目で会社から補助が出るため実質割安で自社株を購入できる特典があることです。
この制度は、申し込みをすれば給与天引きで自動購入されるので、こんな感覚の方もいるのではないでしょうか?
確かに給与天引きで強制的に運用に回せますが、あくまで個別株投資になりますので注意しましょう。
RSU(Restricted Stock Unit)とは何が違うの?
RSUは「譲渡制限付株式報酬」のことです。
「一定期間の継続勤務」を条件に、譲渡制限付株式を事前交付するインセンティブ報酬制度です。
継続勤務している人は、交付されてから株式保有の権利が年々積み上がり、条件期間を満たすと交付された株式の100%を保有している状態になり、売却も自由にできます。
ベンチャー企業などが優秀な人材を確保するために制度として取り入れていることも少なくありません。
企業は優秀な人材を確保し、従業員は株式を保有することで株価上昇に寄与できるようにモチベーションもUPするためWin-Winですね。
ですので、基本的にRSUは「長く働いてもらう」という趣旨があることから、業績が条件になることはほぼないと思います。
- RSU
- ●条件達成⇒譲渡制限が解除されて取得した株式を市場で売却できるようになる。
●条件未達⇒会社は株式を無償取得する。
ストックオプションとは何が違うの?
ストックオプション制度とは、会社があらかじめ定めた価格(権利行使価額)で自社株購入の権利を付与する仕組みです。(購入できる期間や量に規定あり)
役員報酬などのニュースリリースで聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
ストックオプションを付与された人は、基本的に損をすることがありません。
なぜなら、権利行使価額が仮に3000円だったとして、そのあと期間内にどれだけ株価が上昇しても3000円で購入できるのでお得です。
一方で、権利行使価額が仮に3000円だったとして、そのあと期間内に株価が下落したら購入しなければよいのです。
このような意味でモチベーションアップにつながる制度と言えますね。
株式投資の成功確率を上げる基礎知識
株式投資の仕組みは、株式を発行している会社の未来に期待し、自分のお金や時間というエネルギーを投入した結果、未来からのお返しを受け取る流れになっています。
このように感じるかもしれませんが、この感覚を理解していると投資判断で大きな間違いをする確率がぐっと減りますよ。
株式投資に重要なことは3つです。
株式投資に重要な3つのポイント
①時間が経つほど価値が上昇するものに投資する
②「複利×時間」の力を使う
③準備が大切
株式投資は「時間が経つほど価値が上昇するものに投資する」
「時間が経つほど価値が上昇するものに投資する」という考え方はどの株式投資にも共通する大切なルールです。
例えば金融庁の資料では、長期分散投資であっても短期では元本割れリスクがありますが、長期になるほどリターンの幅はプラスに収まっていくことが示されています。
つまり、「時間を味方につける」という考え方が株式投資の根底には流れています。
こう思うかもしれませんが、決してそういう訳ではありません。
少々厳しい表現ですが「ゴミはいつまで経ってもゴミ」という例えがあるように、「価値があるもの」「価値が上昇するもの」を長期的に保有することが大切です。
だからこそ、長期的に右肩上がりを続けるS&P500という米国株の指数に連動する商品が人気なのです。
この考え方は個別株も同様です。
価値(株価)の変動要因は厳密には多岐に渡りますが、シンプルに考えると「3~5年先に業績が伸長している企業は3~5年後の価値(株価)も上昇している」と考えられます。
1日・1週間・1ヵ月などの短期保有は業績よりも市場の波など外部要因影響するためプロでも安定して利益を出し続けることは困難ですが、3年以上の長期視点であれば業績と株価は基本的に相関するので読みやすくなります。
株式投資は複利×時間の力を使う
複利で「時間」を味方につけると、長期的にはとてつもなく大きな恩恵を得ることができます。
複利とは、得られた利息も元本に組み入れて利息がつく仕組みです。
利息が利息を生んで雪だるま式に増加していくので、「複利は人類最大の発明」という言葉もありますね。
- 複利の考え方
- (元本+利息)×金利=複利
例として、単利と複利の差を示した図でご紹介します。
時間を味方につけるのと、つけないのでは、大きな違いがあることをイメージしていただけると思います。
株式投資は準備が大切
株式投資を成功させたいのであれば、投資先の選定や投資の学習に「時間」を投じることになります。
この投資先選定や学習を疎かにして「○○さんが良いと言ってたから」と安易に考えて投資すると、失敗する可能性があります。
書籍、YouTube、ブログなど最近は有益な情報が簡単に入手できる時代になりました。
簡単に情報が得られるようになったことで「立ち止まって自分で考える」という習慣が抜けがちの方は要注意です。
自分以上に自分の資産を本気で考えてくれる人は他に存在しません。
めんどくさがらずに、投資の「準備」に時間を投じると結果も伴ってくると思います。
持株会制度で得られるメリット
株式投資の基礎知識をご覧いただいたので、次は持株会をすることで得られるメリットを4つご紹介します。
奨励金を受け取れるので実質的に割安で株式を購入できる
持ち株会加入最大の魅力が「奨励金」だと思います。
例えば、「月に10,000円購入した場合1,000円の奨励金を支給します」というものです。
会社によって○○円あたり○円の奨励金を支給すると社内運用ルールで定められています。
ちなみに、基本的に奨励金は自社株購入費として自動再投資されるのが一般的です。
証券会社経由で株式を購入するより、奨励金の支給分を株式購入費に充てることができる分、お得ですね!
機械的に投資・再投資を実施してくれる
給与天引き分+奨励金+持株の配当金は自社株の購入費に自動で使われますので、最初に設定すれば再投資は非常にラクです。
自分で株を購入している場合、雨の日も風の日も淡々と「毎月1日に3万円を購入し続ける」という行動は意外と難しいものだったりします。
その点、持株会であれば配当金や奨励金も現金支給されず、支給分は株式購入に自動で充てる仕組みになっているため、半強制的に機械的な積立が可能になります。
給与天引きや自動再投資は、性格的に貯蓄・投資を継続することが苦手な方には適している方法だと思います。
会社の業績や将来性に対する関心が高まる
株式を多く保有するほど、会社の将来性に対して投資家目線で関心を持つようになります。
例えば、決算報告でアナリストとの質疑応答内容を確認し、「今はこんな製品に関心を持っているんだな」という新たな発見が得られます。
実際に製薬会社であれば、決算でアナリストが注目するのは現在開発中の大型化が期待できる新薬や、開発早期ステージの10年後を見据えた展望です。
決算に興味を持ち始めると、決算書を読めるように勉強を始めたり、収益構造に興味を持つようになるなど、副次的にビジネス基礎レベルがUPする可能性もあります。
値上がり益(キャピタルゲイン)が期待できる
自社の株価が中長期に右肩上がりで伸びていれば、購入単価よりも株価は高くなるので、値上がり益(キャピタルゲイン)を得ることができます。
こう思った方は鋭いですね!
たしかにその通りですが、持株会の場合は社内運用ルールで配当金も自動再投資されるケースの方が多いです。
ですので、配当金として私たちの手元に現金として届くわけではないので記載からは除きました。
もし持株会でも配当金は自動再投資されずに現金として受け取れる方は、配当金(インカムゲイン)もメリットになりますね。
持株会制度で懸念すべきデメリット
次は持株会をする際に注意すべきデメリットを5つご紹介します。
給与収入と株式投資先が1つに集中してしまう
持ち株会は「給与」と「投資先」が自社に大きく依存することになってしまいます。
会社の持続的な成長が未来も確信できる場合を除き、リスク分散の観点で「給与」と「投資先」を1社に依存することは避ける方が賢明です。
例えば、持株会に加入して「会社業績悪化⇒株価下落」になる場合を想定してみましょう。
●給与と投資先が一緒⇒業績悪化で給与待遇も悪化し、株価下落で資産も減少
●給与と投資先が別⇒業績悪化で給与待遇も悪化たが、投資は別の資産だったのでセーフ
「給与減少」と「株価下落」が一緒に発生したときのダメージが非常に大きくなるリスクを抱えていることを念頭に置いておきましょう。
特に、マイホーム資金・学費資金として大きな金額を運用している方は要注意です。
お金が必要な時期がある程度わかっているので、会社不祥事や開発失敗等のネガティブサプライズに巻き込まれると人生設計の練り直しが必要になりかねません。
奨励金の支給額は複利で増えない
奨励金は一見するとお得に見えますが、積立保有総額に対して奨励金の支給額も比例して増えるわけではありません。
株を100株保有している人も、10,000株保有している人も、毎月の積立額が30,000円であれば受け取れる奨励金の金額は同じです。
理由は、基本的に奨励金の支給は上限額が定められているケースがほとんどだからです。
つまり、奨励金には複利効果が生まれないため、過度な期待を抱かないように注意しましょう。
奨励金や配当金の恩恵を帳消しにする株価値下がりリスクがある
冒頭の基礎知識でご紹介した通り、株式投資は「時間が経つほど価値が上昇するものに長期で投資する」という考え方が基本です。
つまり、奨励金や配当金はあくまでオマケにすぎず、大切なことは「自社が中長期的に業績を伸ばし続けられるか?」という視点です。
業績を伸ばし続けられなければ、どれだけ奨励金や配当金が得られても株価が伸び悩む可能性は高いので、機会損失につながります。
ここでの機械損失とは、「お金」「時間」などを他の投資商品に費やしていれば得られた可能性のある利益です。
他の投資商品の例では、米国のS&P500に連動する投資信託やETFなどがイメージしやすいと思います。
皆さんが持株会を迷っているなら、以下のような質問を自分に投げかけてみましょう。
「自社は中長期的に右肩上がりに業績が上昇していると思うか?」
「S&P500を上回る株価上昇が期待できるだろうか?」
投資先が持株会のみであれば株価暴落に弱い
投資の世界では、分散投資が非常に大事と言われています。
個別株投資の場合、ある程度リターンを高くする為にリスクをとって集中投資をする戦略もありだと思います。
しかし、「お得そうだから」という理由で、持株会という1社集中投資しかやっていない方は、かなりリスクが高いことを念頭に置きましょう。
対策として、自社以外の株式や債券に分散投資を行い、自社が暴落しても耐えられる資産形成をすることが重要です。
有名な格言に「全ての卵を1つのカゴに盛るな」という言葉があります。
カゴを落下した時に1つのカゴだと全ての卵が割れるリスクがあるので、カゴを分けてリスクを減らせという考えです。
流動性が低い
持ち株会制度では、保有している株式を売却しようと思っても申請から売却まで1ヶ月以上の期間を要することがあります。
また、会社によっては引き出す際に社内申請を出して承認を得る作業が、予想以上に手間だったりすることもあるようです。
もし株式市場が暴落して資産を調整ししたくても、すぐに対応できない点は常に念頭に置く必要があります。
対策として、会社のルール上問題なければ「一定の株式保有数になったら株式を引き出す」ということをこまめに実施するとよいと思います。
持株会をどのように考えるべきか?
メリット・デメリットで混乱しそうになった方がいるかもしれませんので、独断と偏見で「向いている人」「向いていない人」をまとめました。
賛否の意見があるとは思いますが、あくまで私見です。
持株会が向いている人
●自社は最低3~5年後も業績の成長性が非常に高いと信頼(確信)できる。
●もし持株会がなくても、自分の証券口座から自社の株式を買う予定がある。
●既に分散投資ができており、余剰資金の投資先として持株会をしたい。(こまめに売却して資産が偏らないようにする)
持株会が向いていない人
●学費用、住宅購入費用など「減らしたくないお金」の投資先として考えている。
●持株会の仕組みも会社の将来性もよく理解しておらず、投資は全くしていない。
●投資の目的が老後の資産形成(長期投資)で、入金力が十分に確保できていない
株式投資による資産形成を考え始めたことはとても良いと思います!
せっかく投資を検討し始めたのなら、次は自分投資方針に合った商品を選ぶことを考えてみましょう。
例えば、株式投資だけでも「投資信託」「ETF」「個別株」「持株会」など、手段は豊富にあります。
「持ち株会」はあくまで数ある投資の中にある1つの手段でしかありません。
もし投資未経験なら、先に「つみたてNISA」「NISA」をした方が運用益が非課税になる分、利益は課税対象になる持株会よりもお得になる可能性は十分ありますよ。
こう思った方がいるかもしれませんのでお答えすると、「私はやっていません。」
正確には、入社後は何も考えずに持株会をやっていましたが、投資を勉強する過程で自分の投資方針とミスマッチだと感じたので全て売却してインデックス投資に一括投資しました。
まとめ
今回は持ち株会について記載しました。
資産運用は分散が大事で、手段としては多くの方法があります。
皆さんの価値観にあった方法を検討し、その上で持株会が「合う」「合わない」を判断していただくと良いと思います。
投資は自己責任ですので、何かあったときにも自分の中で納得できるよう、必要な知識を学んでいきましょう!
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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