MRの仕事をしていると、顧客からこんな質問を受ける機会があります。
医療制度に関して苦手意識をお持ちの方がおられるかもしれませんが、高額な薬剤が増加する中で、患者さんの自己負担額を意識した治療選択を行う医師も増えてきています。
MRであれば「薬剤+制度」の情報提供をそつなく対応できると、顧客から信頼を獲得しやすいように感じます。
そこで、よく遭遇する医療費助成制度に関してまとめ記事を作成しました。
この記事はこんな方にオススメです。

医療費の自己負担
まず、大前提の医療費自己負担額からみていきましょう。
現行制度での医療費自己負担は年齢や収入に応じて1割~3割の負担に区分分けされています。
医療費の自己負担
【3割負担】
・6歳(義務教育就学後)~70歳未満
・70歳以上の現役並み所得者
※現役並み所得:標準報酬月額28万円以上
【2割負担】
・0歳~6歳(義務教育就学前)
・70歳~75歳未満かつ現役並み所得がない者
※2014年4月1日までに70歳になった人は特例措置で75歳になるまでは1割負担が継続される
【1割】
・75歳以上かつ現役並み所得がない者


医療費助成制度①「高額療養費制度」
高額療養費制度は、抗がん剤やバイオ製剤をはじめ、比較的高額な薬価の医薬品が増加したことで、MRにはお馴染みの制度ですね。
高額療養費抗がん剤のレジメンや、薬剤費の計算をしたい時にオススメのサイトとして「サワイオンコロジー」の中にある、高額療養費 負担額シミュレーションが便利です。
※検索方法:サイト右上の検索欄に「高額療養費 負担額シミュレーション」で出てきます。
高額療養費制度の概要
医療機関や薬局の窓口で支払った額(※)が、ひと月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。
※入院時の食費負担や差額ベッド代等は含みません。
【毎月の上限額】
加入者が年齢(70歳以上かどうか)や、加入者の所得水準によって分けられます。
また、70歳以上の方には、外来だけの上限額も設けられています。
下図の合算額が上限額を超えれば、高額療養費の支給対象となります。

※1つの医療機関等での自己負担(院外処方代を含む)では上限額を超えない時でも、同じ月の別の医療機関等での自己負担を合算することができます。

※1つの医療機関等での自己負担(院外処方代を含む)では上限額を超えないときでも、同じ月の別の医療機関等での自己負担を合算することができます。(69歳以下の場合は2万1千円以上であることが必要)
MRの方は、情報提供時に補足として患者さんが加入している保険者に区分を確認してもらうように伝えるとよいと思います。
引用:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」より
さらに詳細な高額療養費制度に関する情報は以下記事で解説していますのでご覧ください。

医療費助成制度②「難病医療費助成制度」
指定難病を罹患している方の医療費負担軽減を目的とした制度です。
2020年9月現在、国の指定難病には361疾患が指定されています。
指定難病の定義は以下の通りです。
指定難病
難病のうち、患者の置かれている状況からみて良質かつ適切な医療の確保を図る必要性が高いもので、以下の要件の全てを満たすものを、厚生科学審議会の意見を聴いて厚生労働大臣が指定する
○患者数が本邦において一定の人数(人口の0.1%程度)に達しないこと
○客観的な診断基準(又はそれに準ずるもの)が確立していること
引用:厚生労働省「難病対策の概要」より
実際に受給者証所持者数の多い疾患として「パーキンソン病」と「潰瘍性大腸炎」の2疾患は10万人を超えており、人口の0.1%を超えている状況です。(平成30年度末時点)
その一方で、同時期の調査で受給者証所持者数が1名のみの疾患は17疾患あり、同じ指定難病と言っても受給者証所持者の幅は広いと感じます。
引用:難病情報センター「特定医療費(指定難病)受給者証所持者数」より

自己負担上限額のポイントと区分を以下にまとめました。
自己負担上限額
●所得に応じた区分がある
●2割の患者負担は発生する(後期高齢者など1割負担の方を除く)
●外来・入院の区別はない
●1ヶ月の合算(複数の指定医療機関でも合算可)

指定難病でも「パーキンソン病」や「潰瘍性大腸炎」など一部の疾患では軽症例が助成制度対象外となるケースがあります。
また、特例制度も用意されています。
特例制度
【軽症高額】
軽症者のため助成対象外と判定される方でも、高額な医療を継続することが必要な場合※は医療費助成の対象となります。
※医療費総額が33,330円(医療費自己負担割合が3割の場合、自己負担10,000円/月)を超える月が、軽症高額の申請月から12ヵ月前までの期間に3回以上ある場合
【高額かつ長期認定】
高額な医療が長期的に継続する方は、軽減された負担上限額が設定されます。(一般所得・上位所得)
※指定難病についての特定医療の月ごとの医療費総額が5万円を超える月が、申請月から12ヵ月前までの期間に6回/年以上ある場合
難病医療費助成制度は、患者さんが都道府県の指定する方法で申請が必要です。その際「指定医」に診断書を作成してもらう必要があります。
また、申請時に助成を受ける医療機関を記載しますが、もし記載していない医療機関で治療をすると、助成されない可能性もあります。
このように「申請」「更新」「治療」には指定医療機関・指定医の診療が必要です。
制度上の背景から、難病の患者さんは特定の施設に集中する傾向にありますので、MRの方はどの施設が指定医療機関でどの医師が指定医かを把握しておくことは大事ですね。
指定難病に対する治療薬を扱うMRの方は、情報提供特に以下の3点を把握しておくと、スムーズにやりとりができると思います。
●対象の指定難病は「全員助成対象」「重症度次第で助成対象」のどちらに該当する疾患か?
●治療開始から1年間の薬剤費はどの程度と推測されるのか?
●その治療薬を使用すると「軽症高額」や「高額かつ長期認定」に該当する可能性があるのか?
難病医療費助成制度についてさらに詳しく知りたい方は以下記事をご覧ください。

医療費助成制度③「付加給付制度」
高額療養費制度以外に、所属する会社・組織で独自に給付制度を設定し、さらに医療費負担額を軽減する制度を用意しているケースがあります。
高額な医療を受ける際には、公的な制度に加えて会社や組織内での制度を把握することで、治療の選択肢が広がる可能性もあります。
製薬会社の例として武田薬品健康保険組合の独自給付を見てみましょう。
【武田薬品健康保険組合独自の付加給付・一部負担還元金】
標準報酬月額83万円以上の方
最終的な自己負担額:60,000円/月
標準報酬月額53万円〜79万円の方
最終的な自己負担:30,000円/月
標準報酬月額50万円以下の方
最終的な自己負担:20,000円/月
保険医療機関で支払った自己負担額が「最終的な自己負担」額を超えた場合は、その超えた額から高額療養費を差し引いた金額が一部負担還元金等として給付されています。
また、高額療養費に該当しない場合でも、医療機関で支払った自己負担額が「最終的な自己負担」額を超えている場合は、その超えた額が一部負担還元金等として給付されます。
MRの方は、顧客と患者負担の話になった場合、付加給付も情報提供することで患者負担が軽減し、顧客や患者さんから感謝されることがあります。
理由は、付加給付制度自体が本人含めて、知られていないケースが多いからです。
高額療養費制度や難病医療費助成制度は認知率が高いです。
しかし、付加給付に関しては会社や組織独自のものになるため、患者さん本人しか詳細は分かりません。
ところが、付加給付制度自体を患者さんも気づいていない場合もあり、医療者側も知る術がありません。
本当は高額な医療であっても患者さんは医療費負担を安くできるのに、機会を逃している場合がありますので、その可能性を事前に回避できるようにMRから念のため情報提供してみましょう。
余談ですが、製薬会社は付加給付が用意されている会社がいくつもあります。この場合、医療費で莫大な金額を出費するリスクはかなり低くなるので貯蓄で対応可能になるため、医療保険は不要と私は考えています。↓
医療費助成制度④「小児慢性特定疾病」
小児慢性特定疾病に該当する患者さんに対し、1ヵ月間に支払った医療費の負担額が自己負担限度額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。
支給認定には、小児慢性特定疾病指定医による診断書(医療意見書)が必要となり、認定を受けると「小児慢性特定疾病医療受給者証」が交付され
ます。
制度の対象
小児慢性特定疾病にかかっており、厚生労働大臣が定める疾病の程度である児童等。
●慢性に経過する疾病であること
●生命を長期に脅かす疾病であること
●症状や治療が長期にわたって生活の質を低下させる疾病であること
●長期にわたって高額な医療費の負担が続く疾病であること
※基本的には18歳未満の児童等が対象
自己負担上限額は下図をご覧ください。
所得に応じて上限額が設定されています。

重症
以下のいずれかに該当する場合を重症になります。
①高額な医療費が長期的に継続する者
医療費総額が5万円/月(例えば医療保険の2割負担の場合、医療費の自己負担が1万円/月)を超える月が年間6回以上ある場合
②現行の重症患者基準に適合するもの
さらに詳細な情報は、小児慢性特定疾病情報センターホームページをご覧ください。

医療費助成制度⑤「医療費控除」
1月1日~12月31日までに医療費として支払った金額の一部は課税しませんよ!という制度で、確定申告を行うことで、控除とすることが可能です。
①~④の助成制度とは少し系統が異なり、MRが実際に医療関係者へ情報提供する機会は少ないと思いますが、最低限ポイントは知っておく必要があると思いましたので記載しました。
医療費控除の特徴
ざっくりですが、1年で10万円以上の医療費が控除額になります。
例)医療費負担額総額15万円→5万円が控除対象額になる。
【正確な計算式】
1年の医療費自己負担額ー高額療養費・生命保険等の補填額ー10万円=医療費控除額
医療費控除を申請して、実際に返ってくる金額は以下の計算式です。
「控除額×所得税率」=実際に返ってくるお金
所得税率は課税所得額で規定されていますが、製薬会社の方は20%~23%が多いと思います。
所得税率20%で、医療費20万円/年の場合は、
(20万ー10万)×20%=2万円が返ってくる計算になります。
控除対象は以下の通りです。
保険対象外である「歯のインプラント」「不妊治療」なども申請可能な範囲に含まれています。
医療費控除の対象
・診療費(治療費)
・通院費(電車、バスなどの公共交通機関)
・処方箋による医薬品費
・入院費
・入院時の食事代
・医療用器具の費用
・治療のためのマッサージ、鍼灸
・患者として利用したヘルパー代(保健師、看護師など)
・介護保険等制度で提供された一定の施設・居宅サービス
など
引用:国税庁HP「医療費控除の対象となる医療費」
さらに詳細な情報を知りたい方は、以下記事をご覧ください。

まとめ
今回はMRに必要な知識として5つの医療費助成制度を解説しました。
今の時代は薬剤の有効性・安全性に加えて、患者さんの医療費負担額をはじめとする周辺情報も含めて情報提供が必要です。
そうすることで、患者さんや医療関係者の満足度も向上し、MRの価値を高めることにつながるのではないでしょうか。
今回の記事が少しでも役に立てると嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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